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自分の言葉で、いいんだよ。
原田安江がスーパーで買い物をしていた時のこと。
「いらっしゃいませ。こちら、新発売の、ウィンナーでございます。ひとくちいかがですか。」
新商品のウィンナーの試食を提供しているお姉さんがいた。お姉さんはあまりに声が小さく、自信がなさげだった。
「新発売の、ウィンナーを、ご紹介しています。今夜の晩御飯の、おかずにも、おすすめです。」
そんな力のない売り込みで客が足を止めるはずもなく、彼女の声は虚しく空に消えていくばかり。彼女がウィンナーをホットプレートで焼く姿は、どうせこれも誰も食べないんだ、とでも言いたげだ。
お人好しの安江はそんな彼女を見ていると励ましてあげたくなってしまい、ウィンナーを試食することにした。「もう少しやる気出して頑張りなさいよ!」と説教したくなる気持ちにならなかったのは、彼女の胸に「研修中」の名札がついていたこともある。
「新商ひ…新発売の、ウィンナーです。焼きたてを、ご用意しております。おひとつ、い、いかがでしょうか。」
「あの、いただいていいですか。」
「あ、はい、どうぞ。」
「…あら、美味しいじゃない!」
食べるだけ食べて立ち去るはずが、思いのほか美味しかったためお姉さんに声をかけてしまった。
「ありがとうございます!」
彼女から元気な声が出た。
「本場ドイツ風に薫り高くスモークしているため、食べるとお口の中で芳醇なうまみが広がるんです。」
「ほぅ。」
「焼いても美味しいのですが、ボイルしていただくのがおすすめです。そのほうが旨みを閉じこめたままお召し上がりいただけます。本日は機材の準備の都合で焼いてご提供させていただいていますが。
スープの具材にしたり、温野菜サラダに添えていただいたり、あとは若竹煮や卵とじなどの和食に入れていただいても合いますよ。
しっかりした味ですが主張は強すぎず、シンプルにお肉の美味しさなので、すごく調理しやすいんです。」
「あら、そうなのね。」
さっきまでの自信のなさが嘘のように熱弁をふるい始めたお姉さんに安江は少し驚いていた。
「あっ、すみません、ベラベラ喋ってしまって。実は以前、飲食店のキッチンで調理をしておりまして…。それでいろんな食材を見てきたんですけど、このウィンナーはいま、私が家でも使っているくらい気に入っているもので、つい熱が入ってしまいました…。大変失礼しました。」
「それ、私にもくださる?」「俺も食ってみようかなぁ。」
私たちが盛り上がっているのを見て、他の客たちも少し興味を持ち始めたようだ。試食に手を伸ばす客がちらほら出てきた。
「はいっ、ありがとうございます!新発売のウィンナーをご紹介しています。どんな料理にも使いやすくおすすめです!」
調理師時代の知識を活かしたトークをして弾みがついたのか、お姉さんは元気に売り込みを始めた。笑顔が眩しい。試食をし、実際に購入する客をみて、安江まで嬉しくなった。
「じゃあ、わたしもひとついただくわね。」
「ありがとうございます!」
安江はカゴにウィンナーを追加した。
お姉さんが、調理師の頃のようにまた自信をもってお仕事ができますように。