金融の専門家でない理系の企業家:現在価値の応用方法
前回はこちら
理系(だけでもないかも)が現在価値の世界観に慣れてしまえば計算は平易で、理解も難しくないと考える。ここで疑問となるのは、それではこれがどのように使えるか(使われているか)?を知ることは有益である。加えて、自身の事業を考える際にも、ファイナンス的な企業のポジションについて思いを巡らすことにも有効である。
まず、ある世界で自身が企業を運営していると考えてみよう。現在の企業が稼ぎ出す利益*はA(>0)であり、ありがたいことに毎期g%ずつ成長しているとする。その際、当然だが、1+g倍ずつ利益は増加していく。このような企業の利益の合計を算出する場合は、総和をとればよいこととなり、この際は、A+A(1+g)+A(1+g)^2となることは容易に想像できる。ここで、この世界には0金利ではなく利率r%の預金金利がつくとすれば、A(1+g)の利益の現在価値(PV)は、(1+r)で除する必要がある。つまり、A+A(1+g)/(1+r)+A((1+g)/(1+r))^2**となることもそれほど理解が難しくないであろう。ここで、自身の企業の将来の得られる予定の利益の確度は預金金利が得られる確度と比べてどうかということを考える。ほとんどの企業は、預金金利が得られるほど確実に将来の収益が得られることはないであろう。ということは、将来の利益を現在価値に戻すための利率みたいなもの(割引率)dは、d>rとなるであろう。よって、企業の利益の現在価値は、A+A(1+g)/(1+d)+A((1+g)/(1+d))^2となり、rを用いる時より現在価値が小さくなる。この式より得られる洞察は、利益の現在価値の総和(〜企業価値)を最大化したければ、成長率gを高くするか、dを低くすることが重要となる。例えば、設立したてのスタートアップでは固く収益をとれる見通しが低いため、dが大企業に比べて大きくなりそうとの直感が得られる。
私は、コーポレートファイナンスやアントレプレナーファイナンスの講義で手法は理解したが、理解を進めるためには、実際に自分が考察している事業に応用することが良い。例えば、考察している事業の一つに応用してみると利益(粗利ではなく)を出すのは結構難しいということが分かり、事業アイディアを修正するきっかけとなった。それ以来、事業を考える際は、gやdを事業アイディアを考えるとすぐに考えるようにしている。実際には複雑な考えが内包されているが、ファイナンスの専門ではない、理系の事業家であらば、このあたりを抑えておくだけで十分と考える。事業価値について考えるきっかけになれば幸いである。
*ファイナンス的には明確な定義ではないが単純化のため、事業運営により残るお金を利益とする。
**ある時代の日本企業が海外の投資家に預金利率よりも低い成長率の事業を運営していた際に(つまりg<r)、会社を解散して銀行預金したほうが株主のためではという皮肉を言われたと聞いたことがある。
***興味のある方は、以下の書籍に当たってみてほしい。MBA アントレプレナー・ファイナンス入門やMBA最新テキスト アントレプレナー・ファイナンス―ベンチャー企業の価値評価とディール・ストラクチャー