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事業価値が変わる時:事業上のイベントが事業価値に及ぼす影響

前回はこちら:

 事業運営や特に研究開発において、それらの事業価値が定性的な外部環境の変化や自身の事業や研究成果によって変動していることを想像することはほぼないであろう。しかし、これらのイベントを認識する度に変動すると考えるのが、ファイナンスにおける事業価値である。そこで、この事業価値の変動の要因を理解することは、理系の社会実装を目指す研究者や事業家にとって重要であると考える。

まず、成長率(図中g)は、事業が成長(利益が向上するイベント発生が契約などで確定)するとg↑となり事業価値が上昇する一方、事業が縮小する(例えば、主力商品の競争力がなくなり他社にシェアを奪われる)とg↓となり事業価値が減少する。例えば、スタートアップ型のITビジネスでは、実物の商品・サービスを提供する事業と比較して事業拡大が容易であるためgが大きくなることがある。ここで気をつけることは、業種で括ると判断を誤るということである。IT関連企業→成長が早いのではなく、事業(サービス提供)拡大が容易な事業がITの業種に多いことが理由である。IT以外でもフランチャイズ型の小売業も成長が早い。それは、店舗拡大に自社のお金や人ではなく、加盟店のお金や人を使うため成長が早い。興味がある方は、プラットフォーム企業の上場から数年間の売上成長を確認すれば実感が持てると推察する。

次に、割引率(と図中dを呼ぶ)は、事業リスクが大きくなるとd↑となり事業価値が下がる一方、事業リスクが小さくなるとd↓となり事業価値が大きくなる。例えば、スタートアップ企業が大企業と複数年の商品を販売する契約がまとまったとすると、事業リスクが低減したと言えることがある。または、出資者に名声のあるベンチャーキャピタルが加わったり、著名な経営者が参画するなどもdを低減する可能性がある。大企業においては、投資決定者が昇進することで投資資金のアロケーションが容易になる可能性があるため、dが低減する可能性がある。

 以上のように、gとdだけの簡単な表現ではあるが、こなれると、自身の活動がgやdの改善に繋がっているかを確認することで、事業の進捗を見える化できる部分がある。例えば、この研究に成功するとgは上がるか、dは下がるか、または、どの研究がgやdに大きな影響を与えるかを考えてみるのも良い。事業であれば、さらに具体的であろう。事業活動が売上の成長に寄与するか、事業リスク低減につながるかを意識しながら事業運営にあたることができる。加えて、各種投資(含む広告宣伝)の際に、その実行でgが3%増加であれば、現在と+3%の事業価値を計算し、その差が投資よりも大きければ投資に事業収益向上の価値があると判断が可能になる。

 簡単ではあるが、事業価値のファイナンス的な考え方の概観を垣間見ることができたであろうか。この部分は座学で理解しただけでは使えないことも多いため、自身の事業に適用してみてはと考える。面白い点は、成長できなくても事業リスクを減少させることで事業価値が上がる点は新鮮ではないだろうか。(しかし、事業リスクはある程度より小さくならないため限界があることも事実)少しでも、事業運営のお役に立てたのであれば幸いである。

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蛇足になるが、株式投資にも応用可能である。(機関投資家が経営者とミーティングをして、一般投資家よりも情報があるため、一般投資家が機関投資家よりリターンを上げることが困難であることはご存知の通りではあるが。)
・ソフトバンクがボーダフォンを買収した時の負債は高利率であり、色々な返済の付帯条項がついていた。買収からしばらくして、iPhone投入以降、大幅に業績が改善し、通常の負債の借換えに成功した。これは、まさにdが低減するため、大幅に株価が上昇した。
・上場したスタートアップ企業が、赤字のまま、事業拡大の広告宣伝投資を繰り返し、株価が低迷していた。しかし、これらの投資は将来のgを大幅に上げており、数年後、株価が大幅に上昇した。
 他にも事例はたくさんあると思う。ここで、スタートアップ企業とは機関投資家が丁寧な情報交換をしない場合、上記情報の非対称が存在しない。よって、上場したて、または上場してもとても株価が低い企業であれば、gやdについて十分精査し、今後大幅なリスク低減や将来の成長率を上げている銘柄を見つけることで、投資リターンを得られる確率が高まる。
(投資はご自身の判断で。)

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Nobu Fuke
記事を書くときの素材購入の費用などにさせてもらえればと思います。