タイミングが重要:事業価値と資金調達の関係
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事業運営において、資金調達は重要であるが、良くわからないという理系の事業運営者は多いのではないのであろうか。前回、事業価値が変わる意味について触れたが、今回はこれを応用することで、適切な企業価値に基づいた資金調達に近づける行動を選択できると考える。
まず、事業価値は成長率が増加や事業リスクが減少すること(イベント)で事業価値が変化する。これらは、実際の事業活動においてそれらに影響があるイベントが発生したときに変化する。(前回の内容)つまり、それらは連続的ではなく、時間的にある点で発生するものと考えることができる。(特に小さい企業では、イベントが連続的に発生し続ける事がないため。)
次に、これらのイベント発生を理解しているのは事業運営者であり、資金提供者は最新(だけではないことも)のイベントの発生がわからないため、それが未発生の状況での事業価値算出(バリュエーション)を実施する。その場合、事業運営者の事業価値が低い状況での資金調達となり、融資による資金調達の場合、資金調達の低調や高金利となり、投資による資金調達の場合、必要以上の株式の希薄化が発生してしまう。
よって、これらのイベントが認識されそう、顕在化しそうであれば、それらが確定した後、つまりイベントによる事業価値評価の向上が含まれた後に資金調達をするほうがよい。ここで気を付けないといけないことがある。それは、理系人は自身の研究開発成果が進んでいることがイベントであると勘違いしやすい。しかし、この世界での認識とは、例えば研究開発が完了し、所定の成果が出たなど確定的な内容であり、顕在化とは特許化(つまり登録特許になること:出願ではない)、商品化やポジティブな共同事業の契約締結などがそれらにあたる。
蛇足ではあるが、この考え方を悪用して、くれぐれもその反対、悪いイベントが発生する前に資金調達をすることがないようにしなければならない。それは、人の最も重要な資産である信用を換金する行為になってしまうからである。
いかがだろうか?内容が分かってしまえば大したことではないと考えるが、知らないと自ら思いつくことも、そもそも考えることもない領域かと思う。これらの情報が、資金調達を考える際の参考になり、良質な資金調達の一助になれば幸いである。
資金提供側の場合、認識や顕在化しそうな状況(特に事業環境変化による事業価値の変動)を資金提供側の収集可能な情報や専門性から事業化より判断ができるようであれば、有利な投資が可能になるであろう。よって、資金提供者も投資先の事業に詳しい専門家を持っていることは重要であると推察する。同様のことは、株式投資にも言えるであろう。理系がその分野の一般の人が知り得ない「秘密」を知っていると、情報の非対称性が働き、超過リターンが見込める株式投資も可能になると考える。