負債による資金調達も一考の価値あり
前回はこちら:
(参考)理系初学者向け:
理系の事業家(大企業所属ではなく)にとって、資金調達は頭の痛い問題であろう。特に負債=借金⇒金融機関に怖い目にあわされるというイメージがあるだろうか。私はファイナンスを学ぶまでは負債は怖いっていうイメージがあったが、今は単にバランスシートの右側の資金提供先が異なるだけとの認識である。今回は自社の所有権(株式持分比率)を保持するため、負債による資金調達も大切な選択肢であることを考えるきっかけとなればと考える。
まず、負債の性質を考える必要がある。理系の事業運営者にとって、負債といえば金融機関を通じた融資と考えて差し支えないと考える。(社債を発行できる規模の会社の場合、文系の財務の方がいるため、自身で考える必要は薄いと推察するため。)負債の性質は、金利を払う必要があり、元本を期日までに返済しなければならない。返済ができないと、私的整理や法的整理などを実施する必要がある。これらにはふれないが、金利を払って、元金を返済しなければならない資金であることのみを理解しておくと良い。重要な点は、この負債は事業を運営している企業(法人)が保有しおり、その企業(法人)の経営者が負債を背負っているわけではない。よって、企業が破産しても、経営者が負債の責任を負う必要がないことを理解しておく必要がある。ただし、負債を借りる場合に個人保証をしないようにする必要がある。先述の「怖い」イメージは個人保証がある場合ではあるが、現在、この個人保証が起業の足かせになっているという議論もあるため、個人保証付与の必然性が減少してきている。(下記参考)一方、個人保証をすればコミットメントが高まり、融資の確率が上がることもある。
次に、どのような時に負債による資金調達が良いのかを考えていきたい。通常の事業成長による収益増大が見込める場合の運転資金の増加や比較的確実性が高い投資(研究開発や設備投資)が考えられる。特に、後者については、それが成功することで企業価値が大幅な向上が見込める場合、負債で耐え忍ぶ(=時間を稼ぐ)ということが自身の持分の低下抑制につながる。ただし、銀行としては特に若い企業への事業融資は、その事業を見極めることが困難であるため融資を得にくいのは事実である。しかし、融資が得られれば、融資返済までの時間で企業価値を上げ、最悪、事業収益で負債の返済が困難な場合、その高まった企業価値で増資による資金調達を実施し、その資金で返済する考え方もできる。
最後に、負債による資金調達の場合、返済が必要となるため、少なくとも負債の返済期日までに、成長率gや割引率dが改善するイベントの実現や事業収益により返済が可能である蓋然性が高いことが前提であることは忘れてはいけない。
融資についてのイメージは少しついたであろうか?企業で借りる融資のイメージが変わり、資金調達の選択肢となり、起業家が自身の株式持分を必要以上に棄損することなく、事業運営につなげてもらえれば幸いである。