気になる風景
そのお家の玄関から遠く離れて銀色のポストが物置の壁に取り付けられている、その奥にもう乗られなくなったと思われるママチャリが寂しそうに身体を壁に寄せて佇んでいる。
日に焼けたオレンジ色の座面は凛として、元気にヒョウが降るグレーの西の空を見据えて時の流れを見つめて「何か新しい物がみえるの?」と話かけてあげたい衝動をおさえて通りすぎる。
春なので、そんな風に自転車に話かけている姿なんぞ見られたなら、気がふれたお人に見られてしまう。
以前使われていたお家に行く道には、大きな鉄の車輪があり手前には大きな植木鉢が置かれて、その横に一メートルくらいのコリー犬の置き物が雪解けで見えて来た。
夏には雑草に覆われて払い除けることが出来ずにコリー犬は、ペンキが片方はがれて居ない目で東の空を見つめ続ける。
何十年も前に人が住まなくなった家に行く道には、落ちてきた木の種が育ち、見上げる高さでそのお家への侵入者を拒み守っている様に見えて仕方がない。
使われなくなった道は至る所にあり、同じく木々がたくましく育ち、沢山の植物達が道を埋め尽くし、昆虫や鳥たちの住家に生まれ変わっている。
昔使われていた道は踏み固められている為に、地面から生える草たちは限られた物しかなく、背丈が低い、お日様が良く当たるのでゲンノショウコがびっしり生えている。
土用の丑の日を過ぎるのを待ち、私はこのゲンノショウコを通気性の良い日陰にぶら下げて薬として利用させてもらっている。
殆どの腹痛、下痢止めに効くと思われる、数年前に腹痛で入院一か月しても下痢が収まらずに苦しんでいた人に、焦げ茶色に煎じたゲンノショウコを見舞いがてらペットボトル500mlに持って行った。
その人はノロウイルスと診断されて苦しんでいた、入院する迄はそんな物絶対に飲まないと言っていたのに、ペットボトル見るなり手に取り飲み干したのには驚いてしまった。
その日の夕方退院したとその方の友人から報告がありひとまず安心した、そんな事を思い出してしまった。
腸が弱く病院に長年かかるも治らない人の腸も改善したとの連絡もあり効いて良かったと思うこともある。
只、半信半疑で聞く耳持たない人には親切で渡しても利用しないのもある、こちらは大きなお世話になってしまうので普段は殆ど話した事はない。
ある人は胃の薬と言う、薬草に詳しい訳ではないのですが、私の腹痛は有難い自然の恵みで治している。
自然の恩恵は足元にひっそりと佇み笑っているのかも知れない。