命よ
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実家は山奥、と言っても国道から800メートル、此処に家があるとは思わない場所にある。
もうそろそろ桔梗が咲いているはずだわ。
💀 鹿に食べられて全滅、たった一輪青い八重の桔梗、食べられた短い茎から細い枝を伸して頼りなく咲いている。
かなりのショックで暫く桔梗を眺めていた。
背後で鈍く ヴァン ? 振り返った。
屋根の上黒い枝の様な物が見える、風で木の枝かしら ? 風は吹いていなかった。
ゆらゆらクルクルと、野鳥だわ ❢ 羽ばたいて地面に落下して来て茂みに潜り込んだ。
気になる、この状況で見にいかない人は皆無ですよね~。
そ~と、笹をかき分け覗き込む、野鳥の不幸を尻目に、写メをしている私は人非人です。
実家の二階の窓硝子にぶつかり、落ちて来たアオジではないだろうか ? オスはモスグリーン色の頭で胸はもっと鮮やかな黄色、これは雌のアオジかしら。
野鳥には詳しくないのでわからない・・・野鳥です。
口を開けて意識がもうろうとしているようだわ、水を数滴口の中へ入れあげなければと、水のある所迄よ、そ~と、手の中。
暑い程の温もりが伝わり、小鳥の心拍数が心配だわ。
人間に掴まれて、口から血を流して、死んで行った紅雀を思い出してしまった。
あるお宅のビニールハウスにお邪魔した、紅雀は後にも先にもこの時が初めてだった、扉を閉めてその方は「紅雀だわ、珍しいのよ」と言って追いかけ回していた。
私は驚いて見ているだけ、そんな遠い哀しい記憶が鮮やかに蘇ってしまった。
手を水で濡らして人差し指で口元へゆっくり、コクリと喉が動く、もう少し3滴程、喉が動く、半目をひらいてこちらを見る、逃げようとはしないが、ギュッとくちばし閉じて考えているのかな~。
もう、こうなると無理やりくちばしは開けない、くちばしに少し数滴、微かに開いて口の中。
もう安心だわ。
足がまだ丸くなって木の枝をを掴む事は出来ないわね、葉っぱの下に置く、人間が側に居るとこの野鳥にとって危険はない、意識がはっきりする迄5分位、元気に飛んで木の葉の中へ吸い込まれて行った。