小さなオルゴール
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小学生なっていたのだろうか ? それさえ記憶に留めていない遥か遠い子供の頃。
「いいものやるぞ ホラ手を出して」
我が家に遊びに、、、用事で来た人だったのか ? それとも父親だったのだろうか ? とんと思い出せない。
その人はポケットをモゾモゾと動かして何かを握りしめて拳を私の目の前に突き出した。
いいものと聞いて私はドキドキ嬉しい、目の前の拳を穴の開くほど見つめていた。
中々拳は開かなくて待ち切れない私は
「な〜に 早く見たい」とせがんだ記憶がある。
開いた手の平に真鍮色の小さなボツボツ突起が付いたドラムが乗っかった。
「その横に付いている物を回すと音がなるんだぞ、ホラこうやって」
太い指は小さな取っ手、真鍮色の横の棒を少し回して手の平に乗せてくれた。
聞いた事も無い奇麗な音に私の顔は光り輝いて、ありがとうの御礼も言わずに真鍮色の小さなドラム缶を見つめたのを思い出す。
ドラムに付いている突起物が3つ無かった。
小さな子供の手の平にスッポリ収まる真鍮色のドラム、音は・飛んで・飛んで・飛んで奇麗な音が出た。
飛んだ音はどんな音色なんだろう ? 知りたくて知りたくて、直して聞いて見たい。
「どうやったらこれ直せるの ? 」
「ごめんな 専門の人でないと直せないんだよ」
私は聞いた事の後悔が未だに忘れられない。
その人は本当に申し訳なさそうにしていたから、その時の私は思った事を直ぐ言ってしまう子供だった、冷静になった私は拳の人の「ごめんな」と言った目を思い出していた。
私が喜ぶだろうと握り締めた裸のオルゴール、奇麗な箱に入っていて、ドラムのツメもしっかり付いていて、そんなオルゴールを渡す事が出来なかったのだろうと思うと胸が痛む。
でもあの時の私にとってはとびっきり嬉しい出来事だった、それから毎日聞いていた記憶が蘇る、そして、又、ひとつツメが無くなり、音は4っつ聞けなくなった。
真鍮色のドラムだけの小さなオルゴール、相当古かったのだろうと今振り返る、聞いていた時間の長さは覚えていないけど、最後は全部のツメが無くなって音が鳴らなくなった。
私は何時も考えていた、どうにかして直したい、直せないだろうか ?
そして忘れてしまった。