詰まる所が遅刻の言い訳をきいてほしい。
何故ひとは遅刻をするのか。
詰まる所、準備が間に合わないのは当たり前なのだ。
待ち合わせ、会議、出社、通学、デートに会食。
そんなものが無かったら、ひとは己のために時間を使えるというのに。
普段忘れてしまいがちな三角コーナーのカビ取りも、洗い物カゴに放り込み損なった濡れたバスタオルも。出かける前に思い出しては、見て見ぬ振りをしなくてはならない。
全てのものを100パーセント、きちんとあるべき場所におさめていきていけるひとの現存など、ツチノコか橋本環奈レベルのレアリティランクの話だ。
そもそも論として
①設定された時間に間に合うように自分の時間を組み立てるか
②設定された時間までに必要なことを取捨選択するか
③設定された時間からどんな世界を展開させるかに注視しすぎてしまい、たどり着く工程への思考が疎かになる。
だとかの。
そんな、遅刻のメカニズムや、遅刻の根源を辿って対処療法を試みてみたところで。
遅刻というものがこの世からなくなることはない。
だって、ひとは皆、己のみに時間を費やして一生を終えて行きたい。でも、そうはいかない。
だから己の時間に、だれかと何かをすることをねじ込む。
だれかと時間を共有できる瞬間が永遠であれば、そもそも遅刻という概念自体が、相手に生まれないかもしれないし、己から遅刻という考え事態がなくなるかもしれないが。
そんなもの。
真っ昼間から酒をかっ喰らって、生理食塩水を注射針で打ち込んだ挙句に昏倒して見る白昼夢のほうが、まだ現実味があるというものだ。
そもそも僕らはミラジョボビッチではない。
考えてみてほしい。
まず家を出るとなると、あれやこれやと立つ鳥跡を濁さぬようにしつつ、出先での必要なものだとか荷物の選定に洋服や靴から鞄までチョイスをし。
そして、あまつさえ女というものは
メイクにアクセサリーに髪型、ある時はネイルにフレグランス。
子連れの場合はもっとハードモードだろう。
いつ爆発するかわからないダイナマイトを体に巻きつけた状態で爆発物処理をしながら身支度をするわけで。
そんなの、一流の爆発物処理班にも無理なことを、僕らは強いられている。
もう一度いう。僕らはミラジョボビッチではない。
これが、ミラジョボビッチだったら。
起きてすぐシャワーを10分ぐらいしかせず、歯を磨いてユニクロの適当なトップスに、ユニクロの適当だけどパンツを履き、ストッキングも履かずに素足でよくわからないローファーを履いて、すっぴん洗いざらいの髪の毛で、くたびれたトートバッグを慌ててひっつかみ、肩から下げたとしても。
きっとどこからどうみてもIt's so cool.
でも僕らはミラジョボビッチ では ない。
だから。
朝からよくわからないお絵かきを顔面に施して、腹の足しにもならないのに誰に気を使ってるのかわからないが小洒落た風を装うために洋服で神経衰弱をはじめ。それに鞄だの靴だのと合わせて長期戦になり、アクセサリーや小物などであがいて神経をすり減らしきったころに。
他人の不快感を煽らないようにと、洋服から持ち物全てはもちろんのこと、足のつま先から頭のてっぺんまで。
脇はもちろん、股間に耳の後ろ、口の奥から不快臭はしないか不安に駆られて総点検。
ここまでやって、やっと僕らは人権を得る。
これがミラジョボビッチだったなら。
でも、僕らはミラジョボビッチではない。
橋本環奈でも無いし、アンハサウェイでも無い。
だから、遅刻するのは、いたしかたないのだ。
つまるところ、自分の力でどうにも改善出来ない異臭と、自分の力でどうにもできない身なりは、改善するに越したことはないので、
遅刻しても風呂と着替えだけは許してほしい。