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【リレー小説】トロッコ問題

https://note.com/heywood/n/n6a141e6261fb

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 土曜日、学校帰りの電車は少々居心地が悪い。午前中で放課の土曜日は、いわゆる休日の真っ昼間に電車に乗ることになる。今日も、車内はそれとなく着飾った若者や家族連れで満員だ。路線沿いにある観光スポットの名物である、まんじゅうの紙袋を提げている人も多い。太陽の昇らないうちに乗る行きの電車や、日が沈んでからしか乗らない平日の帰りの電車と違って、車内には暖かい陽光が差し込み、陰鬱で眠たげな、あのどんよりとした空気は漂っていない。しかしその、ウキウキとした空気は私には似つかわしくない。大きなリュックを背負って、黒づくめの制服に包まれ、溜まりに溜まった一週間の疲れに押しつぶされながら、単語帳を見る私の居場所は、そこにはない。そういえば、私が物理的に、日の目を見るのも、土曜日くらいかもしれない。

 今週はあまりにも色々なことがありすぎた。色々なことがありすぎて正直もう全部どうでもいい。全てから目を背けていたい。あと一週間。あと一週間耐え抜けば、全てが終わる。そう思った瞬間、彩葉の泣き顔がふと頭をよぎる。
『耐え抜くって、耐え抜くって、それだけでいいのか?』
私は自問する。答えはわかっている。けれど分かりたくはない。分かれば自分の傲慢さを、自惚れた自尊心を、認めることになる。それができない私は自分を取り繕い続けている。心を殻で覆い続けた私は、もはやもう自分というものが分からない。

 なんとか人をかき分けかき分け電車を降り、駅の階段を降りる。歩く間も単語帳は手放さない。今は一分一秒も惜しい。前を歩く家族づれの歩みが遅く、私は少しイラッとして、ふと顔を上げる。

 赤ちゃん……。お母さんの胸に抱かれ、じっとこっちを見つめている。1歳くらいだろうか、柔らかな白い肌に、かすかに赤みのさすほお。茶色い大きな目をくりっとさせて、物珍しいものでも見るような目で、こっちをじっと見つめている。…かわいい。自分の凝り固まった顔面筋がほぐれるのを感じた。しかし同時に、胸にチクリと微かな痛みを覚える。
『そんな目で、見ないで。』
あなたが、まだあまりにも純粋で透明なあなたが、けがれてしまう。私を見たら。

 赤ちゃんの瞳の色が、誰かに似ているような気がする。ああ、彩葉か。だからなのか。彩葉と一緒にいると、ふとした瞬間に感じる疎外感と後ろめたさ。彩葉はあまりにも純粋で透明で、そんな彩葉と一緒にいると、私のけがれた心が、あまりにも硬く黒くこびりついた殻が、いやでも意識されてしまう。

 ああ、やっぱり私は、彩葉と一緒にいちゃいけない。私みたいな人間は、彩葉を、けがしてしまう。

 私は祈る。この赤ちゃんが、そして彩葉が、私のような人間にけがされず、ずっとずっと、純粋で、透明で、いられますように。

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読んで下さってありがとうございます!
29日までに完結させられるのか…??

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