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好きの感情には期限があると思う



 私には好きな人がいた。三年前に告白したけど、フラれてしまってその後は友達として仲良くしていた。
 二人で買い物に行ったり、お酒を飲んだり、カラオケに行ったり、普通の男友達として接していたから私はその時は答えられなかった。



「あなたの事が好きだから付き合ってほしい」



 いつも通り遊んで家まで送ってもらった時だった。今日もありがとうと言って車を降りようとした時に言われた言葉だった。
 私は戸惑いを隠せなかった。それに私の中ではもう既に男友達でしかなかった。何も言えなかった。少し言葉に詰まってしまったから、少し考えさせてほしいと言ってその日はそのまま別れた。

 部屋に戻りしばらく考えた。今までの事。私が告白したあの日から今日までにあった事を整理したかった。
 だけど整理しても何も分からなかった。あまりに「普通」過ぎたから。




 こんな時は友達を頼ろう!そう思って友人に光の速さでLINEを送った。


”ちょっと聞いてほしい事あるから、飲み行かない?今時間ある?”


ピロン


”おっけ、あと10分くらいで出れる。 いつもの居酒屋さんでいい?”

”うん!ありがとう。私も準備出来たらすぐ向かうね!”


 やはり持つべき物は友達だと思いながら準備し、何をどう説明したら伝わるのか考えながら向かった。

 そして居酒屋に着いて席に通されるとすぐに


「なに、何があったの」


 と、少々食い気味で聞かれた。私は今日あった事をつらつらと話してから「どういう事なんだろう」と投げやりな質問をしてしまった。自分でも整理がついていない内容の話を持ち掛けるのは申し訳ないとも思ったが、今は一人で解決出来そうな気がしない。
 少し驚いた表情をしてから友達は


「優子はどう思ってるの?」


 その言葉にすぐに答える事は出来なかった。そして少し時間を空けてから


「私は正直友達としか思ってない」

「けど、一回好きだったよね?」

「でも、今はもう好きの感じが違うというか・・・」

「友達としての好きなんだよね?わかるけどさ」


 友達もなかなか言いずらそうにしている。言いたい事があるのだろう。長い付き合いだから何となく雰囲気から察しがつくもんだ。


「もう一回好きになることはないの?」


 そうくると思った。案の定の言葉に私は苦笑いを浮かべて


「それが分からないからこうして誘ったんじゃん~」

「だよね笑」

「もう分かんないよ、好きになるの遅すぎない?私は三年前から何も変わってない気がしない?なのに今更好きですってどういう事?なんで?どうして?」

「まあまあ、落ち着いて笑 ほら、お酒減ってないよ?笑」


 はいはい飲みますよ、と言いながら残りのお酒を飲み干し、同じジンジャーハイボールを頼む。今日はなんだか早く酔いが回りそうだと思った時にはもう既に酔っていた。そしてベラベラと話始める。


「確かに、今彼氏いないけどさ、彼氏欲しいって口癖みたいにずっと言ってるけどさ、それってやっぱり好きな人がいいじゃん?好きな人だから彼氏になって欲しいんじゃん?」

「そうだね」

「だからと言って、あいつが好きじゃないわけではないし、好きになる可能性もあるかもしれないけど、好きになって付き合うってよりも、好きになる為に付き合うって感じがして嫌なんだよね」

「うんうん」

「てか、そもそもあいつ全然顔に出ないし、分からないじゃん!気づけないじゃん!」

「でもさ、それって優子もあの人の事好きだった時、同じだったんじゃないの?」

「どういうこと?」

「だから、優子があの人を好きだった時はそれを必至に隠そうとしたし、気付かれないようにしてたんじゃないの?」

「あー…」

「だから、少なからず今優子が思ってるその気持ちは、あの人は優子よりも先に感じてた事だと思うよ」

「……なんか、うん。そうなのかも」


 何となく腑に落ちた。そうなのかもしれない。そう思った。そうだとしたらあの人はあの時私の事を「友達」としか思えなかった。だからその時の関係を続けたいと思って、ごめんと言ったのだろう。


 私はその日ベロベロになるまでお酒を飲み、次の日は案の定二日酔い。食べ物も食べたくない。特に出かける用事もない。
 暇を持て余した私はスマホを手に取り、SNSを見てしばらくしてから、YouTubeで適当に出てきた動画を何となく見ていた。懐かしいなと感じる曲が流れた時に、その曲と同時にいろんな事を思い出す。音楽は思い出と一緒になっている事が多く、その曲が流れた時に脳内には風景が浮かぶ。誰と行った場所か、いつ行ったのか、その時の感情まで全てが曲と一緒になって蘇ってくる。

 おそらく、アップテンポで高音が売りであろうこの男性バンドの曲はよく、あの人の車の中で流れていた。有名なバンドなだけあって誰でも聞いているようなバンドだが、蘇ってくる思い出はあの人の事ばかりだった。


「楽しかったな」


 不意に言葉に出た瞬間に気づいてしまった。私もこのまま友達でいたいんだと。「恋人」として「好き」になる可能性がもう無いと気付いてしまった。今蘇ってきた思い出は全部友達としての時の記憶で、ふざけて笑いあっているのが楽しいという感情だ。ここに友達以外の感情は無く、あの人が友達で良かったと心から思える記憶なのだから。

 じゃあもう、言わないといけないよね。






 ”来週の月曜日、仕事終わりに少し会える?話したい事がある”






 「色々考えたんだけど、やっぱり私、付き合えない。友達のままでいたい。だから、ごめんなさい。」

「そっか、そうだよな…遅すぎたよな。少しでも考えてくれてありがとう。」

「いや、私こそ、ごめんなさい。好きになってくれて嬉しかった。ありがとう」


 いつか目の前の人が言っていた

【めったに人を好きにならないから、フラれたりしたら相当落ち込むと思う】

 その言葉を思い出してしまった。大丈夫だろうか、と心配して気を使う方が今はより一層あの人を傷つけてしまうと思ったから、それ以上は何も言わずにそのまま分かれた。少し冷たい対応をしてしまったかもしれないと思ったけど、思わせぶりな行動はしたくなかった。




 部屋に戻ってベットに潜り込む。涙が流れてきた。分かっていたけどこういう事って言う方も辛いんだよなぁ。

 間違ってない、きっとこれで大丈夫。また友達として笑い合えるはず。

 だから、早く泣き止めよ、私。






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