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私事ですが、退職します。
「私事ですが、今月いっぱいで退職します」
昼会の連絡事項を述べる時に、1人がそう言って話を始めた。彼の退職するまでの経緯や、次の会社も決まっているという事、そして職場の人への感謝の言葉をこの場を借りて言わせて欲しい、と。彼はとても優秀な人材だと思ってる。1つ上の先輩で、とにかく頭がきれる。ここぞという場面でしっかり仕事をこなし、抜く時はとことん抜いてサボる。仕事が立て込んでいるのに忙しそうな顔せずに仕事をする、そんな先輩だった。
話の中で先輩は「報告が急になってしまったのは、今まで通り接してほしかった」という旨の事を言っていた。自分勝手なんですが、とも付け加えていた。確かに退職するその日までは会社の社員であり、今までと変わらない同僚というわけなのだから、そこで【退職間際の人】とい謎の扱いを受けたくないとうのは深く頷ける。
「知ってた?」
「何が?」
「退職の事に決まってんじゃん」
「知らなかったよ。全然分からなかった」
「だよね~。あーあ、この職場からイケメンがいなくなるのか~」
「なにそれ、他にも推しメンいるでしょ?」
「そうだけど、目の保養になる人が1人減るのは悲しいよ~」
「はいはい」
昼会が終わった後、仲の良い同期とそんな何気ない会話を交わし、思い出した事がある。自分達にはもう1人同期がいた事。そして彼もまたとても仕事が出来る人だった事。
誰かが言ってたけど、「仕事の出来る人はすぐに居なくなり、仕事が出来ない奴が残る。それが会社だ。」と。
同期が辞める時はとても悲しくて、送別会の時に泣いてしまう程だった。そんな同期が辞めてもう2年が経とうとしている。同期はやりたい事の為に会社を辞めて大学へ入学した。1度社会人を経験してから大学へ入るという事がどれだけすごい事かは分からない。けれど、少なくとも簡単ではない事はなんとなく理解できる。同期が送別会の時にボソリと漏らした本音を忘れる事は出来ない。「同じ学年の人は皆年下で、なんか疎外感を感じる」そう言っていた。彼は今、疎外感無く生活が出来ているだろうか。やりたい事に一歩でも近づいているのだろうか。
2年という月日は決して短くはないけれど、ずっと同じ会社でのうのうと変化の無い日々を過ごしている私では一瞬だ。今日この日に退職を発表した先輩も実は去年から就職活動をしていたと言っていた。
私は1年何をしていただろう。何か出来ていただろうか。仕事をしているという事に固着して、給料を貰っているという事に甘んじて何もしていなかったのではないだろうか。
私は退職をしていく人達に手を振られ、私達は先に行くからね、と置いてけぼりをくらっている気分になった。待って待って、と言うばかりで何も変わらない私に痺れを切らして置いていかれた感じがした。
この会社で私が出来る事はもうやり尽くしているのではないだろうか。業績等に目がくらんで自分の可能性を潰しているのではないだろうか。転職をすれば確実に今以上に生活は苦しくなるし、生活水準も下げなければならない。日課のコーヒーも、昼のランチも、夜の晩酌だって辞めなければならないかもしれない。分かっている。知っている。理解している。だから留まっている。今の私はやりたい事より、今の生活が大事になっているのかもしれない。
いつか私も自分のやりたい事を実現出来て、退職出来る時になったら言ってやろう。
「今月いっぱいで退職します」
優秀な人材だったと思われるよう、少しでも名残惜しと思われるよう、残っている人に心の中で手を振ってやるんだ。じゃあねって。