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わが心の近代建築Vol.33 旧イタリア大使館別荘記念公園/栃木県中禅寺湖

皆さん、こんにちわ。
今回も、以前記載した建築物より、奥日光…
中禅寺湖畔に建てられた旧イタリア大使館別荘記念公園について記載します。
現在、東京の奥座敷として名高い奥日光、中禅寺湖畔については、782年に勝道聖人が男体山の東長寺に発見したのが始まりとされ、784年に神宮寺(のちの中禅寺)が建設。以降霊場として有名になります。

半月山の中禅寺湖展望台からの男体山と紅葉【Wikipediaより転載】

明治期以降、いち早く着眼したのは、イギリス公使秘書官だったアーネスト・サトウ氏。1875年に「A GUIDE TO NIKKO」を記載したところ、避暑に訪れる外国人が増加。
1876年に明治大帝が訪問した際には、中禅寺を「幸の湖」と名付け、1878年にはイザベラ・バートが「いろは坂」を上り切った山頂から見下ろす中禅寺湖に映える男体山を絶賛。その様子を手紙に綴っています。

小林清親『中禅寺湖』(1897年・明治30年)【Wikipediaより転載】

また、1885年に上野~宇都宮間で鉄道が開通するとその数はさらに増加。結果、中禅寺湖畔には「夏には外務省が日光に移る」と言われるほどの盛況ぶり。
各国が競うように、明治期~昭和初期までに別荘を建立。
なお外交官たちの暮らしで重要視されたのはヨットやボート。お互いの別荘を行き来したり、買い物に使うなど彼らの「足」として利用。明治後期には、外国人観光客で構成された、「男体山ヨットクラブ」が結成され、毎週のようにヨットレースが開催されました。

明治から大正期の中禅寺湖の風景を描いた絵葉書

また、中禅寺湖には、もともと魚は生息していなかったものの、1873年に水産庁増養殖研究所によりイワナが放流されたことをはじめとし、カワマス、ヒメマスなどが放流され、スポーツフィッシングも頻繁に行われ、特にヒメマス釣りが盛んです。

ヒメマス【鮭と鰻のWEB図鑑より転載】

なお、今回扱う旧イタリア大使館別荘は1997年までイタリア大使が使用し、のち栃木県が買い取ります。
当初は設計者は不明でしたが、県の担当者が、同時期に中禅寺湖の建造物を設計した関係から、アントニン・レーモンドであることが取り沙汰され、アントニン・レーモンド建築事務所に照会を依頼したところ、のちに3枚ほど設計図が発見、これによりレーモンドの作品であることが発覚されました。

アントニン・レーモンド(1888~1976)について記載すると、現チェコ共和国に生まれ、1919年に帝国ホテル・ライト館(明治村に保存)設計監督のためフランク・ロイド・ライトとともに来日。
のち1921年、日本に建築事務所を開設しますが、関東大震災後、アントニンレーモンド建築事務所と名乗ります。
戦時中はアメリカに帰国。
戦後再来日し、日本に滞在。数多くの作品を残し、1873年にアメリカニューホープに戻り、1876年に亡くなります。

設計者アントニン・レーモンド【南山大学HPより転載】

なお、公開に際し旧イタリア大使館別荘は、昭和初期の建物だったため、比較的保存状態も良かったものの…
  ・非常に湿気の多い土地に建てられた
  ・土台部分に傾きがある
など、公開に際して震強度などに問題があり、一度、解体修繕する必要性があり、2000年に公開に至ります。

建物メモ
旧イタリア大使館別荘
●設計者:アントニン・レーモンド
●竣工:1928年
●文化財指定:国指定登録有形文化財
●写真撮影:可(国際避暑地歴史館内部は禁止)
●入館料:¥300
●休館日:
 ・4月:月曜日
 ・5月~11月:無休
 ・12月~3月:休業
●交通アクセス:
 ・東武バス「中禅寺湖」下車徒歩35分
 ・歌ガ浜行き運航期間(10月1日~11月12日)
  「遊覧船・立木観音」下車徒歩10分
 ・半月山行き運航期間
  「イタリア・英国大使館記念公園」下車徒歩5分 
●参考文献:
・十和田朗監修「近代別荘建築」
・houzz Karen Severs:東西の建築文化を融合させた、レーモンド設計≪旧イタリア大使館別荘≫…NET情報
・LIFULL HOME‘S PRESS:Aレーモンドの初期住宅はローコスト木造でも歴代大使の心を捉え続けた~愛の名住宅図鑑05「旧イタリア大使館別荘」(1928年)…NET情報
・中禅寺湖の歴史などはWikipediaを参照

本館玄関部分:
杉皮とこけら板を縞模様針で仕上げた外観、外壁の仕上げ材に杉皮を用いた点は。建物の建つ土地の景観に着眼したレーモンドならではの技です。
また、建設工事を行ったのも、日光で活躍し寺社建築の造形不快と医療だった赤坂藤吉、高松儀平ら。彼らは東京や軽井沢のレーモンド建築も担います。

煙突部分の外観:
高原別荘型建築では暖炉を設けることは多いものの、旧イタリア大使館別荘では「どの土地にある材料をふんだんに使う」というレーモンドの建築思想から、自然石を用いています。
なお、復元工事の際にはできるだけそのままの素材を残して使用しています。

屋根上部の裏:
邸宅の屋根上部を臨むと、杉皮とこけら材を巧みに用いており、レーモンドの建築思想を色濃く残しています。

中禅寺湖畔から望む:
木々に囲まれた状況。
先述のように、旧イタリア大使館別荘では、土台部分に傾きがあったため、それを組み直して公開に至りました。
また、屋根部分も当初は、こけら板葺きだったものが現在の形に変更されました。

広縁から中禅寺湖畔と桟橋を臨む:
イタリア大使館EU統合をクリアするため、海外資産を償却するため、この別荘を手放しますが、それまでは、この光景も一般の方の目に触れることはありませんでした。
この地域は国立公園ということもあり、一般企業では管理が行き届かないと思われ、県のほうで「緑のダイヤモンド計画」の”あずま屋”的な存在として公開に踏み切りました。

平面図【旧イタリア大使館別荘記念公園HPより転載】:
まず、1階部分では書斎/居間/食堂がぶち抜きになっており、当時、非常に画期的なデザインになっていました。
また、広縁部分からは、中禅寺湖を一望できるビュースポットになります。
また2階部分は大使寝室のほか、各部屋が置かれていました。

1階居間:
玄関から一番最初に見える部屋。
大きな窓に面しており、別荘ならではの解放感を味わえる部屋。特にこの箇所の天井部分は、亀甲型になっており、見るものの目を奪います。
この部屋を含め、邸内天井は創建当時の姿に戻されています。

1階書斎:
暖炉は自然石を積み上げたもので、創建当時のものが使用されています。なお、作り付けの書棚はレーモンドのデザインのものになります。
また、天井部分を臨むと。網代天井など、様々な衣装が組み合わさり、壁部分も市松状になるなど、日本の伝統的なデザインを巧みに取り入れてます。

1階食堂:
ホールに面する扉はキッチンにつながり、使用しやすいデザインになり、こちらの暖炉も創建当時のもの。棚部分も作り付けのものになります。
また、暖炉も地元の石を利用しています。

1階食堂の壁面と天井:
暖炉わきの照明は船で使うものが使用。
また、壁面部分には矢羽根、暖炉上部は市松など、様々な意匠の柄が使用され、ここにも現地の素材を活かしたレーモンドと地元棟梁の赤坂藤吉、高松儀平のスキルを感じることができます。

1階旧客室:
食堂暖炉裏に位置する休憩室。
現在は喫茶室として使用されていますが、こちらの天井や壁にも様々な杉材を使用。また、天井に接する壁部分は市松状になっています。

1階広縁:
縁側は幅2,7m×長さ17mにも及び、ほぼ、建物の前兆に伸びています。ベランダは雨戸と引き戸に覆われていますが、暖かい日にはこれを開放し、風景をじかに楽しむことができるほか、窓枠の郷士が水平を強調しています。

2階から階段を臨む:
階段部分もスギ材と竹で描かれています。
また、使用人たち用に、1階休憩室裏手に、この階段とは別の階段も備えていました。

2階階段ホール:
こちらも、杉皮と竹で組まれています。
また、階段ホールを境に、中禅寺湖側に4室の寝室。反対側の森側にはスリーピングポーチを備えています。

2階休憩室:
玄関ホール上にある部屋。
この部屋はスリーピングポーチとして使用され、森からの吹き抜ける風と柔らかな木漏れ日を堪能してくつろげるようになっています。

2階展示室Ⅰ(大使の間):
イタリア大使の部屋として活用された部屋。
各寝室で最も広い部屋になり、家具やカーテンなどは1997年、日光市に譲渡された際に使用されたものがそのまま使用されています。
また、カーテンなど、それぞれのテーマがあり、各部屋はその色に合わせて名づけられました。

2階展示室Ⅱ:
旧寝室。
この部屋に関しては、もともとは杉皮張りだったものを、復元工事する、ヒノキ材への変更がなされています。

2階展示室Ⅲ:
旧寝室。
かつては寝室として用いられた部屋で、復元工事の際、この部屋も杉皮張りだったものが、サクラ材に変更されています。

副邸(国際避暑地歴史館)【日光自然博物館より転載】:
山側にある副邸。こちらはジャッキで持ち上げて土台の改修が行われたため解体はされていません。

【編集後記】
この邸宅に関しては、なかなか書けずにいましたが、ネットなどから情報を得ることができ、今回公開に至りました。
なお、設計者のレーモンドはスギ材を用いた理由として奇をてらったわけではなく、たまたま日光が杉の豊富な土地柄だったために選び、彼自身、この邸宅の寿命として10年持てばよいと思っていたものの、結果、69年にわたり使用。
現在、設計から96年経過しても、今なお文化財施設とし残ることとなりました。

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