九竜なな也

1967年生まれ。この歳まで生きていると、求められる役割が、家庭でも、職場でも変わって…

九竜なな也

1967年生まれ。この歳まで生きていると、求められる役割が、家庭でも、職場でも変わってきます。さすがに疲れがたまり、身体と同様に心にもガタがきました。心のメンテナンスとして、小説などを書いてみたい。これまでの人生体験を素材として、現実と虚構を織り交ぜる創作を楽しみたいと思います。

マガジン

  • AC/HSPの妻と生きる

    妻の名前は仮名です。毒親サバイバーの妻はアダルトチルドレンでHSP。深いトラウマを抱えて生きています。

  • 詩集「有人向西」

    人ありて西に向かう。その先に何が待つのか…

  • 不純情小説

    決して純情ではない男女の悲しい物語

  • 詩集「この上なく美しきもの」

    2008年編纂

  • 短編連載「リバーサイドマルシェ」

    俺と多香美の出会い。回想小説戦7回

最近の記事

泣きわめいた男

あんなに泥酔したのは、20代の頃以来ではないか。 店内では平静を保ち、客やスタッフと楽しく話したのを覚えている。 何を飲んだかも、しっかり覚えている。 テキーラベースのカクテル二杯。テキーラのショット一杯。ギムレット、モヒート、もう一つラムベースのカクテル。それから、客のアメリカ人と乾杯したウイスキーショット二杯。 スタッフに、酒強いですねと言われたが、歳をとってだいぶ弱くなった方だ。 店は12時に閉まる。その少し前に運転代行を呼んだところまでは覚えている。 目が覚めたのは

    • バーで飲んでいた

      助手席のドアをあけたまま、車の中で寝ていた 誰がここまで俺を連れてきてくれたのか ズボンとシートが、汗で濡れている でもよく眠れた感じがする もうすぐ夜が明ける 楽しかったよな メガネがない

      • 守りたいのに傷つける

        足が不自由な人には、その人の歩く速度にあわせて歩こうと、人は思う。 目の不自由な人には、その人の手を取って導いてあげようと、人は思う。 しかし、誰かに傷つけられ、その傷が癒えぬまま心の障害となっている人は、その内面の障害を人に気づいもらうことは難しい。 だからそういう人は、人と会っているだけて、より一層傷ついていく。そしてついには、外に出なくなっていく。人と会わなくなっていく。 でも、それでその人が安心して暮らしていけるのなら、僕はその環境を守りたい。それが僕の務めだと思う。

        • 肉じゃがの世界

          玄関のドアを開くと そこは、肉じゃがの世界だった。 リビング、階段、寝室にいたるまで この家は肉じゃがに満たされている。 興奮した黄色い雄叫びが そこらを駆けまわる。 キッチンで彼女が奏でる音楽は 心地よいリズムだ。 さあ、子供たちよ。これから、 それを胸いっぱいにいただくのだ。 君たちは知っているか この味が、体にしみわたることを。 詩集「この上なく美しきもの」(2008) 初公開作品 ©︎2024九竜なな也

        泣きわめいた男

        マガジン

        • AC/HSPの妻と生きる
          3本
        • 詩集「有人向西」
          1本
        • 不純情小説
          9本
        • 詩集「この上なく美しきもの」
          4本
        • 短編連載「リバーサイドマルシェ」
          7本

        記事

          詩/誕生

           僕はもともと、長らく、無だった。というより、僕は意識が始まる瞬間を記憶している。その瞬間(有が始まる不連続点)の経験を記憶しているために意識が始まる前のことを無の体験だと錯覚しているのかも知れない。  僕はその瞬間、(視力ではなく)視覚を経験した。真っ暗だった。真っ暗で何も見えないことを視覚した。と同時に、聴覚も経験した。ガチャガチャと金属製の器具類が接触し合う音と、数人の話し声が聞こえた。  これが僕の最初の記憶である。恐らく生命体としての意識が何処からかこの肉体(脳)に

          組織のトップに会議の日時を伝えて出席可否を確認するように、と担当者にお願いしてあったのに、その後の報告がない。会議の前日に僕の方から 「会長は出席できるの?」 と尋ねたら、 「メールしてあります。返事がきません」 だとさ。

          組織のトップに会議の日時を伝えて出席可否を確認するように、と担当者にお願いしてあったのに、その後の報告がない。会議の前日に僕の方から 「会長は出席できるの?」 と尋ねたら、 「メールしてあります。返事がきません」 だとさ。

          宮古空港 すなかぎ にて

          何のために生きるのか どう生きるのか 考えても意味がない この世に生まれ、今生きている。 その現実があるだけだ。 神の意志によって生かされ そして死んでゆく。 その意図を知る由もない。 幸せになろうと求めれば 苦しみから逃れようとあえげば ただ ただ 悩みが残るだけ この人生。 幸せが多いか、苦しみが多いか その釣り合い不釣り合いに意味はない。 静かに受け入れて 死ぬまで生きておればよい。 生の営みを続けておればよい。 平成十一年十二月四日 詩集「有人西向」(2005年)

          宮古空港 すなかぎ にて

          ほんとは消えてなくなりたい妻

          うっすらとした慢性的な気分の落ち込み、虚しさ、希死念慮。これらが何かのきっかけで強くなることがある。 人生の疲れだ。あまりにも、家庭のことと仕事のことに、頑張りすぎてきた。 その疲れが出た。 妻のため、子供たちのため、顧客のため、社会のため、郷土のため。 昔、妻に 「会社を経営していくのがしんどい」 ともらしたことがあった。 妻は激怒した。 抗不安薬を飲んだにも関わらず、夜明けに目が覚めて鬱状態が昂り、別の部屋で寝ている妻に 「たすけて」 とLINEしてしまった。 手

          ほんとは消えてなくなりたい妻

          【掌編・不純情小説】舐めた野郎だ

          女は男の浮気を見抜く鋭い嗅覚を持ち、男は鈍感で簡単に女に騙される。確かにそれはあたっているだろう。 だが、女だってボロを出す時はある。 俺はカズの店で飲んでいた。カズとは古いつき合いだ。彼はベテランのバーテンダーで、うまいカクテルを飲ませてくれるだけでなく、長年の経験からか人の本性を見抜くことにたけている。そんなカズに俺は一目を置いていた。 「こんばんは」 安美が店に入ってきた。そろそろ来る頃だろうと、俺は彼女を待っていたのだ。 「やあ。来るだろうと思ってたよ」 「

          【掌編・不純情小説】舐めた野郎だ

          【掌編・不純情小説】ビジネスパートナーと彼女

          「ねえ、ちょっと聞いて」 会話の流れからすると唐突だった。 盛り上がっていた話題の慣性で、か細い声で発した遥子の言葉は聞き流されてしまった。 その飲み会は、同窓会のように和やかだった。集まった八人のうち五人が、前の職場の同僚なのだ。 前の職場というのは新進気鋭のベンチャー企業で、業界の常識を覆す新しいビジネスモデルをいくつも生み出して話題になった。あれから20年が経った今、もうその会社はないが、そこから巣立っていったビジネスパーソン達は、自ら事業を起こしたり、別の会社の革

          【掌編・不純情小説】ビジネスパートナーと彼女

          相談です【妻はAC/HSP】子供に話すべきか?

          相談させてください。助言が欲しいです。 毒親(実の母親)の存在に苦しんでいる妻は、アダルトチルドレン(AC)でHSPです。 この認識は夫婦(ともに50代後半)で共有しています。 妻は最近、母親が毒親になった原因の一つは父親にあると考えるようになりました。 そして、毒親からの呪縛を断とうと、母親とも父親とも絶交状態になり、きょうだいを含む実家とは疎遠になっています。(妻の実家と我が家は歩いていける距離です) あることがきっかけで、妻の甥っ子が結婚して結婚式に招待されたらどう

          相談です【妻はAC/HSP】子供に話すべきか?

          詩/少年の夏

          空を見上げて コーラを一気に 飲み干した、夏。 無数の泡が 細い喉の内ではじけた。 胸にささった 「さようなら」の文字も、そのとき はじけて消えたように思えた 詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より 初公開作品 ©️2024九竜なな也

          詩/少年の夏

          小説:妻はAC/HSP ①長いトンネル

          第一話 長いトンネル (974文字) 同じ家に暮らしていながら、俺と美鈴はほとんど顔を合わせず話もしない、暗黒のような時期が一年半続いた。話すことがあるとしたら、子供の学校のことや、二人で営んできた事務所の経理に関する事務連絡のみであった。それも極力LINEで。直接顔をあわせて肉声で話すということはかなり稀だった。 日中は、家事や事務所の経理をするため美鈴はリビングいることが多かった筈だ。それが、俺が帰ってくる頃になると、隣の畳のある部屋に引きこもる。「ただいま」と言って

          小説:妻はAC/HSP ①長いトンネル

          詩/雨音

          悲しいのは… こつこつ、窓をたたく雨か ちっちっ、ただ鳴っている壁の秒針か 音を立てない、あなたの吐息か 悲しいのは… 詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より 初公開作品 ©️2024九竜なな也

          詩/Yo ka ze

          ふと、一人になりたくて 砂色の部屋から 小さなベランダにでた。 星になりきれなかった 窓や街灯を十ほど数えて 目をつむると… 待っていたかのように 風が頬をつつむ。 永遠からの使いのように ずっと、ここで待っていたよ… と、言わんばかりに 詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より 初公開作品 ©️2024九竜なな也

          詩/重たい雲

          ぼてっと落ちてきそうな 重たい雲が 私を癒すのです。 透き通る青い空から 私を隠してくれて しばらくここにおって 泣いたらええよ と、言うのです。 詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より 初公開作品 ©️2024九竜なな也

          詩/重たい雲