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血塗れ花嫁

ふと目が覚める。夫の神経質な歯軋りにうんざりしながらも、少しは眠れたようだった。夜中の2時30分。気怠い初夜。私は時刻にして昨日結婚したばかりだった。夫となる人物は一週間前に顔を合わせたばかり。
印象はあまりない。肌が白くて、眼鏡かけてた。豆腐みたい。職業は医者だったかな。学者かも知れない。
どちらでもいい。

だって結婚っ永久就職でしょ?私興味ないし、政略でもなんでも決まってりゃ楽じゃない?
就職氷河期で、四苦八苦するよりいい。お手伝いさん雇うだろうし。私の役割は飾りでしょう。心得ている。蝶ネクタイ?ネクタイピン?カフスか…

ゴロリと寝返りを打つ。眠れない。これはさいしょだけ。そのうちこの苦痛もなくなる。夫の肌の汗ばんだ気持ち悪さと体液も、蠅の羽音のようなノイズも。

ん?ノイズ?そういえばあの神経質な歯軋りは聞こえなくなっている。私はそっと隣を見る。すると夫になる人物が血塗れで倒れていた。

え?寝ぼけてる?私

そう思って思わず二度見した。ついでに自分の身体を確認した。強盗かなんかに襲われているとしたら、私も怪我をしているはずだ。しかし外傷なし。真っ暗なのに、夜目が利くので良く見える。薄らパジャマに血。身体は傷ついていない。どうやら返り血のようだ。

と、いうことはつまりは私が殺したの?どうやって?てか、なんで?嘘wやばい、記憶ないんですけどwww夢遊病?うけるw

笑っている場合ではない。本当に死んでいるのか。状況を確認しなければならない。私は意を決して、その手を取る。

元夫の手首及び首を確認!はい、絶命!
元夫は全裸で絶命⭐︎私絶対絶命⭐︎

つんだな、塀の中かしら…嫌だわ〜

そう思いながら、どうしようもないからゴロリと横になる。きちんと確認したら気が抜けてしまった。もっとウキウキするとか、盛大に悲しむとか、取り乱すとかできればいいが、事実を知った瞬間、ずっと冷静になってしまった。興味がない。

あーそういえば喉が渇いた。何か飲むかな。唇を舐めると甘い…濃厚なチョコレート?
口に何かついているようなので、鏡の前に立つ。すると私は映らず、タンスと死体があるベッドだけが映る。ふたたび唇を舐める。甘くて美味しい。
これを貪るくらい舐めたい。

あれ?これ血だ……やだ、私こいつの血を飲んでんの?まじか…美味しいんだけど。

飲むと満たされる。そうか。空っぽの私に必要なのはこれ?

この男の首に吸い付いて、舐めて、噛んで…涙が出てくる。美味しくて、まずくて、気持ち悪くて、気持ち良くて、悲しくて、笑えてくる。

どうしよ、この死体。邪魔だな。もうカラカラ。いらない。

全部燃やそう?それがいいよ。
全部無かったことにする。燃やして命からがら逃げて…

いや、いや、頑張って土に埋める?これを運んで、地中深く?

えー全部めんどくさいよ。

あーねむくなった。もう寝ちゃお♪

私は枕にダイブして、うつ伏せで寝る。頭はスッキリしていて、少し清々しい。そんな気がした。


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