カウンセリング
「先生、なぜ人を殺してはいけないのですか。」
少年は虚ろな目をしている。真っ直ぐ向いてるのに、目が合わない。
「一般的には人の命を奪う権利はないから、ね」
私はありふれたことしか言えない。私にだって分からないのだ。
「先生はなぜ僕が妹を殺したのかわかりますか。」
少年は窓辺に向かう。外を眺めているのか、濁った灰色の目。何も映らない虚ろ。
「妹さんを守りたかったって聞いたわ。」
「ふふ、先生は伝聞ばかりだ。」
空は眩しいぐらい快晴。なんて似つかわしくないのだろう。ここが一階で良かった。屋上だったら少年は飛び降りているに違いない。
「父は僕たちに暴力を振るっていました。父子家庭の僕たちに父に逆らう術はありません。殺すか死ぬかそれしかないのです。」
「究極ね」
「そうでしょうか。死ぬということは出口だと僕は思うのです。死んだらどうなるのか死んだ奴にしか分からない。なのにどうして自殺も殺人も悪いことなんでしょう。生きてても何もないのに。」
「死ぬことがいいこととは限らないわよ。」
「少なくとも生きることが良い事だとは思えません。」
「君は....父親ではなく、妹を殺したそうね。みんな不思議がっていたわ。」
「僕は妹を出口に連れていっただけです。妹もそれを望んでいた。ずっと。」
「君は肉体、精神的暴力にずっと耐えていた。父親が妹に性的暴行を加えていたのを知らずに。それを知って耐えられなかった。」
「あんな....気持ち悪い........僕はあの瞬間に思ったのです。父をこの地獄に置いていこうって。出口になんて連れて行ってやるものかと。僕も妹と一緒に行きたかったのに....!」
少年の目に狂気が宿る。刺激しすぎたかもしれない。
「落ち着いて。さあ、今日はもう終わり。お休みなさい。」
少年の細い腕を掴み、注射をした。
少年は一瞬目を見開いてから、目を瞑った。
「先生、兄はどうですか。」
「殺したと思っているわ。」
「兄は私を溺愛しすぎてるのです。」
恍惚とした目。瞳は潤って煌めいている。
「そうね。かなりのシスコンみたい。でもそれが君の兄の願望なのだわ。」
そしてそれを君も望んでいる。だって君は幸せそうに笑うのだから。
「私兄が私を殺したいほど愛されているのだと思うと嬉しいのです。先生、なぜ殺されたいと思ってはいけないのですか。」
澄んだ瞳をまっすぐ向けて少女は首を傾げる。
「一般的には人の命を奪われる権利はないから、ね。」
まだまだ仕事は終わらない。永遠のループを抜けるには殺すか死ぬしか出口がないのだろうか。
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