むかしむかし、冬のとある小さな街で。
1990年2月26日。
雪がしんしんと降るその日、1人の赤ん坊が今にも消えてしまいそうな産声と共にこの世界へと引っ張り出された。
彼女は自分が思っていたタイミングとは全く異なる瞬間に世界へと出されてしまった為、自分の身に起きたことを理解するまでに時間がかかった。
空気は想像していたよりも少しひんやりとしていたし、世界の全てが霞んで見えるので不安になったりもした。
思いきって声を出してみると、白くて大きな人が
「ゆうこちゃん、どうしたの?」
と言って代わる代わる声をかけてくれるので、どうやら自分は『ゆうこ』という人らしい事を理解した。
ここへ出てきてどのくらいの時間が経ったのだろう。
ぼわぼわした世界に耳を傾けると、他の小さい人も白い大きな人達にそれぞれ色々な呼ばれ方をされている。
「“名前”って、いうんだって。」
突然はっきりとした声が耳に飛び込んできたのでそちらへ顔を向けると、ゆうこよりほんの少し先にここへ出された小さな人がプクプクとした両手をぎゅっと握りしめ、眉間にシワをよせながら語りかけてきた。
「“この世界”に産まれて1番先に与えられるもの。持っていると何かと便利なもの…」
彼(あるいは彼女)は続けた。
「でも、現段階では自分で選べない。…ねぇ聞いてよ“たろう”だってさ。」
ゆうこはじっと考えてから
「…たろうが君の“名前”なの?」
と、声をかける。
するとたろうは眉間のシワを更に深くさせながら
「そうみたい…………。」
と返事をした。
そこで2人の会話は途絶え、ゆうこはしばらくぼんやりと考えた。
自分は“ゆうこ”らしいけれど、それ以外はまだなにも知らない
この霞む世界がいつまで続くのか、ずっと続くのか
どうしてここへ来たのか、どこから来たのか
これから先“ゆうこ”はどうなるのか
どんな事が待っているのか………
考えれば考えるほどわからない事がたくさんあったので
再び不安になったゆうこは、たろうと同じように眉間へシワをよせてみた。
そうすれば答えを出すことができると思ったからだ。
けれども全く答えは出ない。
「………とりあえず“ゆうこ”を過ごしてみるよ。」
たろうにそう声をかけると
「そうだね。せっかく出てきたんだから、楽しもう。」
と返事が返ってきた。
たろうの方へ視線を向けるとふぁーっと大きく口を開けている。
「“あくび”っていうんだってさ……」
そう言い残してたろうは深い眠りの中へと落ちていった。
穏やかな寝息を聞きながらゆうこは自分の両手を少し動かしてみる。不安をかき消すように、パタパタと。
「“ゆうこ”を楽しんで過ごしてみるよ。」
…そう決意したか否か、今となっては知る術もないけれど。
1つ確かな事は、恐らくこの夜は後にも先にも人生で最も穏やかであったという事。
そんな昔の、夜の話し。
*…*…*
名前
詠邊 ゆうこ
(ながべ ゆうこ)
🕊️Twitter
( https://twitter.com/yuko0v0o )
📷Instagram
( https://www.instagram.com/yuko0v0o )
生年月日
1990年2月26日
プロフィールの詳細はこちらをどうぞ。
>>『詠邊』という人
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