細胞内共生説 -科学用語解説
※使用している画像は一部を除いてAIで作成しています。
細胞内共生説とは?
細胞内には様々な役割をする器官が存在します。
それらのことを細胞内小器官と呼ぶのですが、
その中に2つ異質な器官が存在するのです。
その2つの名前は、「ミトコンドリア」と「葉緑体」です。
この2つの器官は、
「持ち主とは別のDNAを持ってる」
「独自の細胞膜のようなものを持っている」
「独自のリボソームを持っている」
「rRNAの塩基が原核生物に似ている」
という特徴を持っており、
元は別の生物であったのではないかという痕跡が多く見られました。
この考えから生まれた仮説が「細胞内共生説」でした。
生物発生の起源
時を38億年前に遡ります。
このころに初めての生命が誕生しました。
そのころの地球は、48億年前に生まれて間もない姿であった
ドロドロの溶岩があふれ出る「深紅の惑星」から、
海の水によって青く見える「蒼の惑星」へと変わったと言われる時期です。
そのころに存在した生物は、細胞内に核を持っている真核生物とは違い、
核を持っていない生物でした。
構造としては、「原核生物」や「古細菌」などに近いかもしれませんが、
まるっきりその形かと言われると分からないところです。
今回の話ではとにかく「現在の生物の細胞と違う構造をしている」
とだけ覚えていただければ大丈夫です。
(また機会があれば原始生命体の解説もします)
さてそんなこんなで生まれた生物ですが
今から30~25億年前にある生物が生まれました
その名も「シアノバクテリア」です。
スノーボールアースの原因
シアノバクテリアとは、藍藻類(らんそうるい)とも呼ばれる生物で
地球上で初めて水と光エネルギー(太陽光)を使い
二酸化炭素から炭素を分離させることによって、
栄養分であるグルコースを取り出すことに成功した生物です。
化学式だとこんな感じ↓(覚えなくていいです)
当時、地球の大気の組成は、現在とは全く異なりました。
火山の噴火などによって二酸化炭素の濃度は高く、
逆に酸素は10%以下だったといわれています。(現在は21%)
それだけ古代の大気には二酸化炭素が大量に含まれていました。
シアノバクテリアにとっては餌となる二酸化炭素が大量にあるため
生存にかなり有利だったでしょう。
さてここで二酸化炭素の性質を思い出しましょう。
二酸化炭素は温室効果ガスと呼ばれ、
太陽からの熱を大気中に溜め込むという役目を持っています。
現代で言われている温暖化はこの性質によるもので、
そのため現代の人間は、「二酸化炭素排出量を減らそう」
というキャンペーンを進めているわけです。
そんな現代においては人類の敵とも呼べる二酸化炭素ですが、
古代の地球にとっては、気温を一定以上に保つために
活躍していた気体でした。
そんな気体がシアノバクテリアによって消費されまくったわけですから
地球全体の気温がめちゃくちゃ下がります。
その下がり方は尋常ではなく、地球表面が全て凍り付くほどに
気温が低下しました。
地球全体が凍り付くさまを現代の人間は
「全球凍結」(スノーボールアース)と表現しました。
さらに、シアノバクテリアは二酸化炭素を栄養分とする際に
酸素を放出します。
当時は、酸素が少ない大気環境が地球のデフォルトだったため
生物もそれに合わせて、酸素が少ない環境下で生活するための
身体構造をしていたと思われます。
そのような構造の生物にとっては
酸素は生きるのに有害な毒でしかありません。
ちなみにシアノバクテリアが生産した大量の酸素は、
現在はオゾン層として、地上に降り注ぐ有害な紫外線を
防ぐ役割を有しています。
有害な紫外線がオゾン層で防がれた結果
生物が陸上に進出できたというのもシアノバクテリアの大きな功績でしょう
つまるところシアノバクテリアというのは
現代の私達のような酸素を取り込む生物にとっては、
酸素を生み出した救世主ですが、
その当時の生物にとっては、毒となる酸素を生み出し、
全球凍結という地球全体が凍るという環境をも変化させてしまった結果
大量絶滅の引き金を引いた悪魔のような生物でもあったのです。
酸素を使った生物
前述で説明した通り酸素というのは、
当時の生物にとって毒ではあったのですが
そんな毒を取り込みエネルギー利用をする生物が現れました。
それが、「α-プロテオバクテリア鋼」だといわれています。
いま私たちが酸素によって呼吸しているのは
体内の細胞で酸素によるエネルギー生産をするためです。
呼吸によるエネルギー生産の効率はすさまじく、
酸素を使わないエネルギー生産方法(発酵)と比べて
約10倍も効率がよいうとされています。
その当時から、現在の呼吸と同じような
エネルギー生産方法を使用していたのかは分かりませんが
酸素というのはそれだけ巨大なエネルギーを秘めているのです。
やっと話せる細胞内共生説
いよいよここからが本題になります。
細胞共生の始まりは捕食でした。
シアノバクテリアやプロテオバクテリアを食べた際に
彼らのDNAが混ざりこんだ結果、
光合成と呼吸ができる生物が生まれたと考えられています
捕食から共生へ変化した痕跡は、
「盗葉緑体」という現象を持った生物から類推することができます。
この現象は現代では、
「ウミウシ」や「渦鞭毛虫」(かべんもうちゅう)の
一部が行うことができる現象です。
光合成をおこなえる藻類を取り込み、体内で光合成をする現象です。
これによって取り込んだ葉緑体は一定期間しか持たず
増殖することもありません。
しかし、その葉緑体が細胞内に存在している間は光合成をしてくれるので
盗葉緑体はエネルギーの獲得の手段として用いられています。
「体内に生物を取り込み自身に有用な行動をさせる」というこの現象は、
捕食と共生の中間的存在といってもいいでしょう。
このことから、
「生物は別の生物を細胞内に取り込んで
エネルギー獲得の装置にすることができる」
ということが分かります。
もう1つ共生が起こった原因として考えられる説は「水素仮説」です
これはシアノバクテリアが出した酸素によって
地球上で、水素と二酸化炭素がどんどん少なくなっていった影響で
エネルギー生成が困難になった「メタン生成菌」が
酸素を使ってエネルギー生産をする「α-プロテオバクテリア」を取り込んだという説です。
これらのことから細胞内共生は成立したと考えられています。
ミトコンドリアと葉緑体
先ほどから説明のたびに出てきている
シアノバクテリアとα-プロテオバクテリアは
現在も形や名前を変えて、生物の細胞内に存在しています。
シアノバクテリアは「葉緑体」
α-プロテオバクテリアは「ミトコンドリア」
この2つの細胞内小器官は共生によって生まれ
植物と動物という多細胞生物を形作る元となりました。
どちらもエネルギー生産に関わる器官であり
この器官が動植物に備わったおかげで、
単細胞生物しかいなかった古代とは比べ物にならないほど
生物は巨大化し、多様化することができまいした。
まとめ
「細胞内共生説」とは、
主にミトコンドリアと葉緑体の起源を探る説である
いまから30~25億年前に発生した「シアノバクテリア」により
地球の大気組成が大幅に変化した。(二酸化炭素は減少し酸素は増加した)
酸素が増えたことにより、酸素をエネルギー生産の手段とする
「α-プロテオバクテリア」が出現した。
古代の生物はエネルギー獲得の手段として
「シアノバクテリア」と「α-プロテオバクテリア」を細胞内に取り込み
共生するという手段を取った。
取り込んだ2つの生物は今現在も「葉緑体」と「ミトコンドリア」として
動植物の体内でエネルギー生産の手段として受け継がれている。
おまけ小話-進化の順番-
私たちは植物の方が早く地球上に出現したと思いがちですが、
実際には動物の方が植物より早い時期に出現したと考えられます。
これは、現在の植物細胞と動物細胞の様子から見て取れます。
葉緑体は動物細胞に入っていないのに、
ミトコンドリアは両方の細胞に入っています。
これは動物細胞の方が先に出現し、
その後にシアノバクテリアを取り込んだ微生物が植物に変化した
というのが自然でしょう。