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デパート敬語でスピーチをするそごう・西武労組の「静かなストライキ」に対する街の人々の共感、その前を視覚障害者が白杖をつきながら通った時に起きたこと
8月31日、そごう・西武労組が1日限りのストライキをやるというので、池袋まで野次馬見学に行った。ストライキという以上これはもうパルコは火の海になり、機動隊と高島屋は武力衝突を繰り返し、三越は人民の海に沈むに違いないという血湧き肉躍る期待を胸に池袋駅を降りたが、実に駅周辺は静かなものであった。
駅の地下街の西武デパートにはストによる休業の張り紙がしてあった。このようなものである。
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この地下街の休業張り紙のシャッターの前に、多くの人が集まり写真を撮っていた。マニアやブロガーというより、普段の池袋駅を歩くわかものや女性が多かったと思う。珍しいことなので、記念に写真を撮っているのだ。それくらい日本では大手デパートのストライキは珍しくなってしまった。
ツイッターで知ったのだが、昔は三越がストライキを決行し、「三越にはストライキもございます」(品揃え豊富というジョークなのだろう)という垂れ幕を出していたらしい。
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地上に出ると、ルイ・ヴィトンが休業していた。1日の閉店でいくら飛ぶかわからん高級店である。しかしながらなんと言っても本社はフランスなので、こうしたことにも理解があるのかもしれない。知らんけど。
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そして、そごう・西武労組の人々が地上のシャッターの前でビラを配っていた。
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そして、十数名の組合員がタスキをかけ、二人ほどがスピーカーを通じて通行客にアピールをしていた。音量は絞られ、声は抑制され丁寧なものであった。
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この様子はニコニコ生放送などでも中継されていたようである。
スピーカーの組合員は二人いたのだが、右のおじさんは労働組合のストライキにも関わらず「えー、大変ご迷惑をおかけしております」「このようなストライキの実施に至っております、ぜひご理解を賜りたいと思っております」「常日頃からご愛顧を頂いている地域の皆様にはご迷惑をおかけしております。大変申し訳ございません」というデパート敬語で面白かった。普段はそごう・西武で働いているのだから客に対する敬語が染み付いているのだろう。
視覚障害者の人が白杖をつきながら道路の黄色いラインを歩いて横切る時、元々ラインを踏まないように下がっていた労組の人々はさらに一歩下がり、スピーカーの人はマイクを切って待った。視覚障害者の聴覚をスピーカーで遮断してはならないと思ったのだろう。一流デパートの社員らしい、見事な心配りであった。その部分をスマホで撮影した動画もあるのだが、視覚障害者の人の肖像権もあるのでひとまずアップはやめておく。
スピーカーを下げ、周囲にも注意を呼びかけ、視覚障害者の人が見えなくなるほど歩き去ると組合員たちはまたスピーチを再開した。
ニコニコ動画だけではなく、多くのテレビメディアがその姿を撮影していた。NHKをはじめとする地上波各局が、道ゆく人々を捕まえてインタビューをしていた。若い女性から老人に至るまで、街の人々の反応はストライキにきわめて好意的だったように思えた。
上記に記したように、高級デパートの従業員でもある組合員たちの人となりが洗練されており、また視覚障害者への対応でも分かるようにヒューマンで血の通ったものであることも、街の人々に好感されているように見えた。それだけではなく、外資に買収されて親しんだ百貨店の雇用が危うくなる、という状況が、日本で暮らす人々にとって他人事ではなかったこともあるかもしれない。
いくつかの条件があれば、日本でもストライキが市民に共感を持って受け入れられることもあるのだな、と驚きの感情とともに思った。残念ながら常にそうであるとは言えないからだ。
左派系野党の支持率は低迷を続け、ネオリベラリズムを掲げる政党、あるいはネットの論客は躍進する。必ずしもそれでいいと皆が思っているわけではないのだ。だとしたら、今回のそごう・西武の労組の「静かなストライキ」に対する街の人々の共感、埋蔵された国民感情を、現在の野党は取りこぼしていることになる。
そんなに弱腰だから経営陣になめられるのだ、今回だってストライキの最中に外資に売却が決行されるというなめた態度を取られたじゃないか、と批判することも出来るだろう。確かに今回のストライキは、政治用語で言えば「ブルジョワ的」なものであったとも言える。でもそのブルジョワの苦境、不安こそが日本のマジョリティと共鳴したのであって、鉄鎖のほかに失うものをもたないプロレタリアの激情を叩きつけても街の人々の心は離れて行くだろう。政治クラスタの人々には不愉快だろうが、事実だ。
でもそうした、ブルジョワ階級から始まる労働運動に、新たな可能性を感じたのも事実だ。
思い出していたのは、現在進行形のハリウッドの脚本家や俳優たちのストライキ、そして宮崎駿や高畑勲が身を投じたかつての東映動画の労働争議である。この2つは、今回のそごう・西武労働組合と同じように、ブルジョワ階級でありながらの労働争議と言えるかもしれない。
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