さすがにいい加減そろそろ山﨑賢人を評価すべきなのではないかという話
2020年に、デジタルフライデーに山﨑賢人の記事を書いたことがある。
山﨑賢人が映画の一作一作に身を捧げる献身的な俳優であること、それにも関わらずSNSでは「また山﨑賢人主演かよ」などと揶揄されていること、映画賞にほとんど無視され続けていること、などを書いた記事だ。ここに書いたことを今読み返しても、間違ったことは書いていないと思う。
この記事を書いたのはもう四年前だが、この『劇場』という映画の公開によってさすがに山﨑賢人に対する評価も変わるのではないかと当時思っていた。なにしろ2020年の時点で、日本アカデミー賞の壇上から最優秀助演男優賞を受賞した吉沢亮が「優秀助演男優賞にノミネートされた時、誰よりも先に山﨑賢人から連絡がきた。来年は一緒にここに来ようぜと話した。彼が主演として作品を引っ張り、僕も彼と一緒に演じたことによってこのような賞をもらえた部分もあると思う」とスピーチしたくらいである。
日本アカデミー賞最優秀助演男優を受賞した俳優が、その場にいない、つまりは「優秀賞」として会場に招かれてもいない俳優の名前を挙げて「来年は一緒に」と言うことのメッセージというのは強烈で、要するに吉沢亮は「審査員のみなさん、山﨑賢人のこともそろそろ評価してくれていいんじゃないですか」と暗に言ったわけである。山﨑賢人は新人のころに「日本アカデミー賞新人賞」を他の若手俳優8人と一緒に受賞したきり、その場に呼ばれていなかったのだ。
しかしその翌年も山﨑賢人は日本アカデミー賞に呼ばれることはなかった。2024年現在にいたるまで、「最優秀」に至る前の「優秀賞受賞者」としてレッドカーペットを歩いたこともない。
日本アカデミー賞だけではない。wikiで山﨑賢人の受賞歴を見ると
2016年
第39回日本アカデミー賞 新人俳優賞(『orange - オレンジ -』、『ヒロイン失格』)
2018年
第98回ザテレビジョンドラマアカデミー賞 主演男優賞(『グッド・ドクター』)
アジアベスト俳優賞 エンターテインメントアワード「2019愛奇芸尖叫之夜」2020年
最優秀俳優賞 「WEIBO Account Festival in Japan 2020」2024年
第23回ニューヨーク・アジアン映画祭(英語版)「The Best from the East Award」(『キングダムシリーズ』)
LINE NEWS AWARDS 2024 俳優部門
テレビ雑誌のドラマ賞、海外イベントでの賞を除けば、日本の映画賞の受賞歴がいまだにほとんどないままであることがわかる。
しかしその一方で、山﨑賢人は日本映画に多くの貢献をしてきた。
2019年「キングダム」(興収57.3億円)
2022年「キングダム2 遥かなる大地へ」(興収51.6億円)
2023年に「キングダム 運命の炎」(興収56億円)
そして今年の「キングダム 大将軍の帰還」は興収80億円を突破し、今年の邦画ナンバーワンが確実視されている。
キングダムシリーズだけではない。同じく今年公開の映画『ゴールデンカムイ』の興収は29.6億円を記録し、Netflixでのシリーズにもつながっている。
また、Netflixで主演している「今際の国のアリス」は公開初日から87カ国でTOP10入りするなど、海外で多くのファンを獲得している。
海外でのイベントで受賞していることを見ればわかるが、山﨑賢人の評価はアジアを中心とする海外のファンから極めて高い。
第23回ニューヨーク・アジアン映画祭は北米で最も古い歴史を持つ映画祭で、そこで最も優れたアジア俳優に贈られる「The Best from the East Award」を日本人俳優が受賞するのは山﨑賢人が初めてとのことである。
さすがにまずい状態だと思う。山﨑賢人ではなく、日本の映画業界がである。端的にいえば「エンターテイメント大作シリーズで圧倒的な成功を主演俳優として導き、海外でも評価される若手俳優が国内の映画賞からほぼ完全に無視され続けている」という形になっているわけだ。
僕個人は上記の記事で書いたように何年も前から山﨑賢人を評価すべきだと言い続けてきたが、こんな状態になってしまったのは映画業界の側にも言い分はあるのだろうと思う。
ひとつには、山﨑賢人は2016年以降、映画出演がほぼ主演作である。2020年に公開された「狂武蔵」は助演だが、撮影したのは2013年で9年もお蔵入りしていた作品だ(追記:山﨑賢人部分については『キングダム1』のころという指摘をいただきました)。つまり「助演男優賞」を授けようにもあまり助演作がないのである。
では主演男優賞は、というとこれはこれでなかなか強力なライバルが多く、例えば日本アカデミー賞ひとつ取っても「じゃああなた、全米映画批評家協会賞主演男優賞を受賞した西島秀俊や、カンヌ国際映画祭男優賞を受賞した役所広司をさしおいて山﨑賢人を最優秀男優賞に選べって言うんですか?」という言い分もあるだろう。まあしかしそれはおいても、優秀主演男優賞としてレッドカーペットに立たせるということくらいはしてよかったと思う。日本アカデミー賞がそれもせずになぜここまで山﨑賢人を無視してきたのかはちょっと謎である。キングダムが日テレ資本だから逆に遠慮したのだろうか?
もうひとつの原因としては、我々SNSの問題がある。『キングダム』も『ゴールデンカムイ』も、山﨑賢人主演の配役が発表された段階から(『ゴールデンカムイ』に至ってはなぜか発表の前から情報がリークされ)、SNSはめちゃくちゃに彼を叩いてきた。
いや何回も言うように僕は前掲の記事をはじめ山﨑賢人はいい俳優だと言い続けてきたけど、先入観を固定してバズらせがちなSNSは山﨑賢人を「ダメな邦画俳優の代名詞」であるかのように叩きまくってきた。あれを見ていたら映画賞関係者が「山﨑賢人に賞を与えたら何を言われるか判らん」と思ってしまうのも無理はない、いや無理はあるけどさ、でもそういう空気作ってきたでしょ僕ら。いや僕は作ってないけどさ。『ジョジョの奇妙な冒険』なんて決して悪い映画じゃなかったのに、叩いて叩いて叩きまくってついに小松菜奈が登場するはずだった続編まで潰してしまったのである。まあ作ったら作ったで空条承太郎役の伊勢谷友介の事件でお蔵入りしてた可能性はあるのだが。
しかし過ちを改めるにはばかることなかれである。日本アカデミー賞というのは、作品や俳優が海外で評価されると「ははっ、もちろんわたくしどもは以前からあなたを評価しておりました」と土下座して日本でも賞を与えるというほとんど時代劇の小悪党みたいな振る舞いをしてきたのだが、日本人として初の「The Best from the East Award」を受賞した山﨑賢人への評価が変わるのならそれはそれで悪いことではない。
問題は変わらなかった場合である。ここまでの今年の映画賞でも山﨑賢人に賞が与えられる気配はない。さすがにそろそろいいんじゃないですかみなさん。別に僕は映画賞になんのコネクションもないですけど、さすがにまずいんじゃないでしょうか。
何度でも言うが、山﨑賢人はいい俳優である。『ゴールデンカムイ』で杉元を演じた時、SNSは彼の肉体の細さをやり玉に挙げて叩きまくった。それにこたえるように山﨑賢人は肉体をビルドアップして撮影に臨んだが、むしろ俳優として杉元にふさわしかったのは彼の肉体の強さではなく、彼の心の繊細さだったと思う。戦前の日本の北海道で、アイヌを見下さず、「アシㇼパさん」と敬称をつけてアイヌの少女を呼び、彼らの文化に敬意を示す元大日本帝国軍人。それはゴールデンカムイという作品の最大のフィクションであり、現実には存在しなかった嘘である。そうした嘘を真実にする説得力が、アシㇼパ役の山田杏奈に対する山﨑賢人の繊細な演技にはあった。『陰陽師』や『羊と鋼の森』や『夏への扉』と言った、『キングダム』ほどにはヒットしなかった作品についても同様である。そうした彼の俳優としての得難い資質が評価されるようになってほしいと思う。
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