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東京芸術劇場で見た『DOJO wip』内の短編演劇、サヘル•ローズ氏演出の無言劇『  』にこめられたもの

東京芸術劇場で、俳優たちが短編演劇をオムニバスのように連ねた企画『DOJO wip』を見てきました。

東京芸術劇場の芸術監督・野田秀樹が立ち上げた東京演劇道場。藤井千帆さん、藤井咲有里さんなど、以前から各所で「この人はすごい」と思ってきた役者さんたちが次々と野田秀樹道場に集まるのを見ていると、やはり才能はいつか発見されるものなのだなと思いました。

今回は、俳優自身が演出を手がけるところが目玉です。フロアトポロジーのゲストで知った藤井千帆さんは『淋しいおさかな』の演出や音楽を手がけ、別役実の絵本のような世界をフィジカルな演技でよく表現していました。演技力に圧倒された藤井咲有里さんは、ジブリッシュという架空言語で演じるシェイクスピアの中で客席を爆笑の渦に引き入れていました。

しかし今回、なんといっても印象に残ったのは、サヘル・ローズさんが演出に関わった『  』(←これがタイトルです)だったと思います。

後述するように劇のクライマックスで児童たちの手紙の朗読が入りますが、全体としては無言劇に近かったと思います。2つのグループが舞台上に存在する、すれちがったり、近づいていたりする2つの集団は、ある瞬間に轟音とともにまったく違う環境に分けられる。一つのグループは自由に。もうひとつのグループは、天井のない囲いの中に閉じ込められます。

それ以降、2つのグループは決定的に異なる扱いを受けるようになる。「塀の外のグループ」は紙飛行機にこめたメッセージを自由に飛び回らせることができるのに対して、「塀の中のグループ」が手紙を折った紙飛行機は壁に阻まれて外には届きません。情報発信力に雲泥の差があるわけです。

ここに、アダという女の子をはじめとする児童たちの作文の朗読が流れます。それが実在の児童のものであるのかどうかは劇中では明かされません。ただ切実な響きをもって、2つの分断されたグループを演じる俳優たちの比較を観客の目に映しながら、観客は「勉強して『ここ』をいい場所にしたい」という児童たちの声を聞くことになります。

まず今の状況で観客が思い浮かべるのは「天井のない監獄」と呼ばれるガザとイスラエルのことでしょう。それは確かにパレスチナ問題の対比として鮮明なメタファーになっていましたが、それにとどまらない、普遍的な隠喩劇になっているように思えました。

前掲のナタリーの記事を読むとわかるように、今回の舞台には演出補助として野田秀樹が各所でアシストしており、たしかにどの幕にも野田秀樹的テイストを感じました。サヘル・ローズさんの幕でいえば紙飛行機のモチーフは、野田秀樹に読売演劇大賞をもたらした『Q』を思わせました。

しかしながらこの舞台『  』には、サヘルローズさんにしか演出できない表現することの必然性と、切実な当事者性があるように思いました。それはガザの隠喩であると同時にイランの隠喩でもある。そしてまた同時に、孤児院から養子になり来日した日本でいじめにあった彼女の心のモチーフでもある。これは本来は長編劇になるモチーフの一部であるという意味のことがパンフレットには書いてあったと思いますが、その舞台をぜひ現実化させてほしい、と感じました。

舞台を見ながら、思い出していた映画がありました。東京国際映画祭で見た『TATAMI(タタミ)』、イランの独裁体制に抵抗して亡命する女子柔道選手の映画と、そのプロデューサーであるジェイミー・レイ・ニューマンの言葉でした。

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絵やイラスト、身の回りのプライベートなこと、それからむやみにネットで拡散したくない作品への苦言なども個々に書きたいと思います。

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