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性的同意の有効期限 YES/NO

「手、つないでいいかな?」
「ハグ、していいかな?」

「――キス、していいかな?」

一つ一つ言葉にする。それは別に恋人同士が焦らして遊んでいるわけではない。

言葉通りの意味。
要は、同意の確認だ。

空気を読む。ニュアンスで。
言わなくてもわかるだろう。

そんな言葉はもはやこの時代には通用しない。
両者の合意のない行いはハラスメントであり、暴力だ。
暴力とはつまりは、犯罪行為というわけだ。

それがいまのスタンダードだ。
もちろん性交渉――ようはSEXするためにも同意がいる。
そしてきちんと記録に取る必要がある。

俺はスマホのアプリを起動する。
これから行うことについてアプリはキチンと文章と音声で説明される

▶これから行われることは両者同意の上で、間違いはありませんか?
▶暴力行為や暴言、脅威と感じる状況ではありませんか? 
▶飲酒を行っている場合、同意は無効となります。また風邪薬等一部薬物を服用している場合も同様です。
▶睡眠時間が十分ではない場合、同意が無効となる場合があります。連携している睡眠計測サービスで確認し、チェックを入れてください。
・・・・

数十の項目にチェックを付けることで、ようやく同意にたどり着く。

「じゃあ――また明日」

同意から24時間は待期期間だ。
勢いでの過ちを防ぐため、丸一日は開けないといけないのだ。

一昔前の人間にとっては情緒も何もないだろう。
しかし、不同意な行為を防ぐために、アプリが悪用されないように提供側も涙ぐましい努力の上で、サービスを設計しているのだ。

これがいまの同意というやつだ。
これくらいしないと、後が怖い。手間をかけることで人生を棒に振ることもなく、また不誠実な行為を抑止できるのだとしたら安いものだろう。

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一年後、
「同意をしていない交渉を強要されたとの訴えがされています。同行いただけますか?」
「なんだって? そんなことはない! ちゃんと記録を取って、同意の上で彼女とは行ったんだ・・・ほら、見てみろ! これが証拠だ!」

 そう警察に突き付けたアプリ画面には[サービス終了]の文字だけが写っていた。


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