おそろしい世の中/小さな子が世界に絶望した理由
「ああ、おそろしいおそろしい!」
「おばあちゃん、どうしてそんなに怖がるの?」
「みてみぃ、ひどい犯罪が横行しちゃる」
そういってばあさんは孫にテレビをみせる。そのテレビは安易に犯罪に加担する若者たちを報道していた。
「あー、ニュースかぁ!」
孫はもう見飽きたと言うふうにいうが、老婆は真剣に孫に説く。
「なにをいっているんだい! そんなことじゃあんたもロクな人間にならないよ!」
「ろくなって・・・?」
「ニュースを見てみい。ロクでもない人間ばかりじゃろう? 若者は犯罪に走り、大人も不正ばかりじゃ」
「そうなの?」
「ああ。政治家も自分のことばかり考えて裏金・献金・脱税のオンパレード。大企業も儲けることばかりを考えて、消費者をないがしろにしちょる」
「そうなんだ・・・」
「そうなんだよ。全くひどい世の中じゃよ。私はお前がかわいそうでかわいそうでならないよ」
「そうなの?」
「ああ。わしらは年金でなんとかくらしていけるが、もうこの後の世界に夢も希望もないよ。これから生きるのはつらいよ」
「えー」
「老人ばかりになって自分のことしか考えんようにみんな、なる。今でも大変なんだから、お前が大人になることはもっと大変だろう。ばあちゃんはお前の将来が心配だよ」
「そんなに大変なんだ」
「ああ、そうだよ。わしらが若いころは活気があった、これから世の中がよくなっていくだろうという希望があった。それがいまじゃ・・・なげかわしい。お前はかわいそう、かわいそうじゃ。わしらが若い頃は・・・・」
そう老婆は深々と語り続けた。
数日後ーー・・・・
「なしてじゃあ・・・・なして、お前が・・・!!」
老婆は少年を見ながら、泣き崩れていた。
「お前には夢も希望もあっただろうに・・・老い先短いわしらとちがって、これからなんでもできたのに・・・どうして自分で」
少年は、二度と目覚めなくていいことに安堵するような顔をしていた。