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台北流行音楽中心|アジア音楽フェス「JAM JAM ASIA」

アジア音楽のフェス「JAM JAM ASIA」

二回目の禮拜天(日曜日)、台湾に来て初めての音楽イベントに行った。
「JAM JAM ASIA」は台湾を中心に日本、韓国、タイ、ベトナムなどのアーティストが集結するアジア音楽のフェス。
場所は台北市の少し外れにある「台北流行音楽中心」で行われ、会場は室内メインという、まだまだ夏が続く台湾ではありがたい形で見られるフェスだった。

「台北流行音楽中心」の立地と会場の雰囲気は東京でいう有明のような感じで、コンサートホールに複数のライブハウス、録音スタジオ、練習スタジオ、レコードショップ、さらには台湾音楽の歴史を展示しているミュージアムなどが並ぶ、一帯が音楽エリアになっている場所だった。
2020年オープンとかなり新しく、建物もどれもかっこいい。

しかし音楽興行を目的として作られた都市の外れのメインホールのキャパは5,000人で、台湾のそもそもの人口の少なさを思わせるようだった。
ざっと調べたところによると台北では台北アリーナ(キャパ15,000人)の次、2番目に大きく、コンサートホールとしてはおそらく一番の大きさではないかと思う。

フェスという規模感で、国内だけでなくアジア各地から沢山ゲストを呼ぶ「アジア音楽」のイベントというのは日本では実はあまり多くないように思う。出演アーティストの約半分は国外のアーティストだった。
改めて台湾の位置を、Googleマップをぐん!と広域にして見てみる。
すぐ真上を中国、北東を日本や韓国、南をフィリピンやインドネシア、西をベトナムやタイ……とアジア各地に囲まれたこの島国:台湾だからこそ実現できるそれぞれの距離・文化の近さを感じる。

とにかくこのJAM JAM ASIAという日本にはないフェスの存在にまず胸が踊り、一緒にいく友達もまだいない中一人で行ってきた。(9/8のみ)
日本に住んでいたらイベントのためだけに台湾まで足を伸ばすことはなかなか難しい。住んでいる醍醐味とは、実際に"場所"に足を運び体験できることだなと改めて思う。


The Dinosaur's Skin 恐龍的皮

恐竜の被り物を被ったビジュアルが目を惹く2人組バンド恐龍的皮はそのビジュアルのインパクトとクスッと笑えるような遊び心満載のMV、そして見た目からは一見想像できないほどクリアで甘い声のギャップと、ドリーミーなポップサウンドが海でトロピカルジュースを飲んでいるかのような心地よい夏の心地を残す。

私が着いた頃には残り2曲になってしまっていた。
しかし着いた瞬間になんと新曲を披露するとのMCが!見逃した数曲の残念さはチャラになるくらいの、最高なステージが繰り広げられていた。
実際に見た恐龍的皮はMV通りのおふざけ感とかわいさで、茶目っ気たっぷりのステージだった。ラスト曲In My Dreams (You're Not Extinct)ではステージにエキストラが上がり並んでダンスする姿が印象的でとても和やかで楽しい世界が広がっていた。日々の疲れを全て放っぽり出し、何もかも忘れてDinersaursの世界に誘われるようなライブだった。

Fool and Idiot 傻子與白痴

今回このJAM JAM ASIAに行った大きな理由は、彼らを見たかったから。
3年ほど前に知った彼らの音楽は、ギターロックのバンドサウンドでありつつシューゲイザー、エレクトロニカ、テクノなどインダストリアルな雰囲気を醸す。
一度聴いたらすっかり虜になってしまった。
アイコニックな4人のメンバーはファッションブランドのタイアップなどもこなし立ち姿もかっこいい。
またフィジカルアルバム《姿勢》は第35回 golden melody awards 最優秀アルバム装丁デザイン賞にノミネートされるなど、サウンドだけでなく視覚も含めあらゆる面で美意識を感じるバンド。

サウンドチェックで大好きな曲"OY"が流れ、メインホールに駆け込んだ。体力の都合で2階席に着席したけど、心はずっと実際に彼らの演奏を見られる高揚感と目の前で放たれている一音一音に心を奪われていた。まだ始まっていないのになんだか涙が出てきた。
少し押して幕が上がったら登場の映像に圧倒された。
立ち上がる者は誰もいない2・3階席のおとなしい空気感に耐えられなくなって1曲目のDumbが始まると1階のフロア席へと駆けていった。
開演しても誰も立ち上がらないのは日本との違いなのか、メインホールの椅子がフカフカだからなのか、このイベントだからなのかはわからなかった。

「音源と遜色ない」というのは時には褒め言葉になり、時には貶しになったりもする。けれど傻子與白痴の音楽は音源と遜色ないほどきれいに仕上がったグルーブで、さらにライブの醍醐味である曲の繋ぎやアレンジを含む全てがライブの良さとなって表れていた。
未だ来日公演は一度もない彼らの音楽を、ようやく彼らの活動拠点である台湾の地で見られた。同じ空間の中そこで楽器が鳴り声が響くこと、フロアにいる一人として彼らの世界に包まれる時間、私はこの瞬間のためにここまでやってきたんだという気持ちにさせた。
海外でライブを見る経験は韓国・ソウルでのSEVENTEEN以来2回目だった。まだまだ言葉に不慣れな1人の外国人もここに居ていいんだと包むような芸術の力をおもう。
你終究不愛這世界ではもう涙が止まらなかった。中国語で歌われる叫びのような歌詞が身に沁みた。我們需要只愛という気持ちで幕が閉じた後もしばらく余韻に浸っていた。

会場を出るとにわか雨が降った午後、周りの人々がなにも撮るものがないような方向に向かってスマホのカメラを向けていた。カメラが向けられた先を見ると綺麗な虹が出ていた。この虹も私をやさしく包むようだった。

せっかくのフェスだけど20代前半の頃のようなエネルギーはもう持ち合わせておらず少し外で休憩していた。目の前では日本から、日食なつこのライブが繰り広げられていた。台湾という場所で日本のアーティストのライブを見ることもまた新鮮に感じられた。英語のMCに日本語の曲は、私という日本人ではなく今ここ、台北にいる多くの台湾の人たちに向けられたものだった。

Only Monday



この日初めて知った、タイの3ピースバンドOnly Monday。フロアに人は少なく、私もかなり前の方で見ていた。
しかし完全に心を掴まれてしまった。
メロウな曲調のなかに90年代オルタナやメロコアの雰囲気を醸し、ジミヘンを思わせるオールドスタイルのゴリゴリのギターが鳴っていたりちょっとメタルをも感じるようなロック全般からの影響が垣間見える音楽が、耳心地よく穏やかにまとまっているのが不思議だった。
全く分からないタイ語の歌に、フロアに集まったオーディエンスは大合唱していた。もしかしたらタイからのお客さんも多かったのかもしれない。コールアンドレスポンスやファンサもすごくて、全く言葉が分からなくても手を上げてしまえる。とにかく終始盛り上げるのがめちゃくちゃ上手かった。
ライブの最後にはその日(いや前日だったかも)誕生日だったというドラマーに向けて、みんなでhappy birthdayを熱唱した。
終演し、3人並んで何回も深くお辞儀をしていたのもとても印象的だった。
1日を通して一番フロアが熱狂していたステージだったように思う。ライブの盛り上がりは、数だけでは量れない。ライブをつくるのは演者と客双方であることを改めて実感した。
後日MVを見てみるとなんと1億回再生超えのものもあり、タイではものすごく人気なんだということを改めて実感し、このフェスに行っていなかったら知らなかった出会いがありがたかった。

康士坦的變化球 KST



00年代後半〜10年代の日本のオルタナシーンを連想するような、私にとってどこか少し懐かしい聴き心地のバンドだった。
ベースはシューゲイザーでありながら、歌詞や声は魂の叫びのようなエモも感じさせる。
台湾の音楽シーンについて、最初はシティポップ的な穏やかなサウンドばかり探して聴いていたけど、掘り進めるとエモーショナルなバンドが数多くいること、人気を集めていることに気付く。
康士坦的變化球もまさにそのひとつだった。メイン会場の1階フロアに紛れながら初めて聴く音楽に耳が懐かしさを覚えていた時、周りの人たちはみんな大合唱していた。
日本ではよく「台湾のお客さんはノリがいい」と噂に聞いていて、フェスに来てちょっと驚きだったのは思いの外お客さんがみんなおとなしかったこと。フロアで狂ったように踊る人はほとんどおらず、スマホを縦に構える手がいくつも伸びている光景が目立った。これはSNS時代がもたらした変化なのかどうかはわからない。
でも康士坦的變化球ではみんなが一曲一曲を、歌詞を共有している一体感を感じた。歌詞を知らない私は静かに揺れることしかできなかったけど、台湾の人たちの共有している魂を垣間見た。
中国語圏の音楽には「どのような言葉を、メッセージを歌に乗せるか」という歌詞の重要性を思わされたようだった。

おわりに

欲張りの気持ちで最後まで見ないと気が済まなかった20代前半から、30目前である現在、楽しみながらもちゃんと休むことをおぼえ、このフェスでは無理なくゆったりと約5組のアーティストを見た。

日本では見れなかったアーティスト、初めて知ったアーティスト、アジア音楽のおもしろさをネット上の情報ではなく現地で触れて感じることができたのはJAM JAM ASIAというフェスの醍醐味だった。
想像以上に混雑していない会場はそもそもの人口の少なさを実感させられたけど、入場規制などもなく、押し合いへし合いなどもなく熱中症のリスクも低い室内でのフェスというのも、どれもが初めての鑑賞環境だった。
このようなイベントが日本でもいつか開催されたらいいなという淡い希望を抱きつつ、私の台湾・アジア音楽旅は始まったばかり。

再見!


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