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ジンとは何か?(4)

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ジンとは何か?(4)


前回までで、長かったEUのルールはおしまいです。世界的にも日本においても度々参照される規定ですのでちょっと細かく、長々と説明しました。
ここからは、日本での規定とEU以外の外国での規定を見ていき、それぞれの共通点や関係性などに触れていきましょう。

まずはヨーロッパの次にジン作りのブームが訪れたアメリカでの定義です。
多岐にわたるお酒の情報を取り扱うブログ”alcademics”によると、輸入やライセンス製造ではないアメリカ産のジンが作られ始めたのが1996年です(アメリカを含む、ジンの長い歴史についてはまた別の機会に書きます)。様々なメーカーが盛んに作るようになったのは2000年代半ば。日本に比べて10年ほど早いですが、ヨーロッパに比べるとほんの最近のことですね。そんなアメリカでは、ジンをどのように定義しているのでしょうか。



今回読み解くのは、アメリカ合衆国連邦政府が発行する、連邦規則集の蒸留酒の定義部分と、同国財務省のアルコール・タバコ税貿易局による定義です。EUの定義同様、原文を資料として添付します。興味のある方はご参照下さい。

では連邦規則集のほうからいきましょう。
これによるとジンとは、
穀物の蒸留物、またはその再留物や、蒸留物にニュートラルスピリッツ(米国内の定義ではアルコール濃度80%を超える蒸留酒。原料は問わない)を混ぜたもの、のいずれかに対し、ジュニパーベリーとその他の芳香剤(おそらく天然の植物を指す、現在ボタニカルと広く呼ばれるものだと思われます)そのものか、上記のボタニカルを、漬け込むか蒸気を通すかして(”infusions, percolations, or maceration”)抽出した香料か、を使って香り付けした蒸留酒。
またはそうして得られたジンとニュートラルスピリッツの混合物も含む。
ジンの香りはジュニパーベリーが主体で、ボトル詰めの時点で40%未満であってはならない(”be bottled at not less than 80° proof”)。
ニュートラルスピリッツとの混合がなされていない場合、ディスティルド・ジンと呼ばれることがある。
ドライジン(ロンドン・ドライジン)、ジュネヴァ・ジン(ホランズ・ジン)、オールド・トム・ジン(トム・ジン)はディスティルド・ジンの中の1タイプとして知られている。
という事になります。
一文に要素が多すぎて、なんだかよくわからないですね。アルコール・タバコ税貿易局の資料が個別に説明してくれているので、そちらも一緒に見てみましょう。

a.ジン(”GIN”)
ジュニパーベリーの香りを主な特徴とした蒸留酒。製法は蒸留によるもの、あるいはジュニパースピリッツと芳香剤やエキスの混合によるもので、40%以上のアルコール度数で瓶詰めされたもの。

b.ディスティルド・ジン(”DISTILLED GIN ”)
穀物を糖化・発酵させたもの(マッシュと呼ばれる)を蒸留して作られるジンで、ジュニパーベリーや他の芳香剤、またはそれらのエキス、エッセンス、香料を加えて作られる。


c.リディスティルド・ジン(“REDISTILLED GIN ”)
蒸留酒を再蒸留して作られるジン。加えられる香り成分の原料はディスティルド・ジンと同じ。


d.コンパウンデッド・ジン(“COMPOUNDED GIN ”)
ニュートラルスピリッツにディスティルド・ジン同様の香り成分の原料を混ぜ合わせて作られるジン。

ここまでが大きく「ジン」のカテゴリーに含まれるお酒の区分です。
アメリカでは使用される香りの原料(ジュニパーベリーを含む)が天然物か、エキス、香料を使用するかでタイプが異なることは無いようです。
タイプが別れる基準は製法で、特にディスティルド・ジンは蒸留前の「もろみ」の状態でジュニパーベリーやボタニカルを加えたものであるように見受けられます(筆者の訳が正しければ)。これは基本的に蒸留酒から製造工程をスタートするEUの定義とは異なる部分です。
また、d.のコンパウンデッド・ジンは原料のニュートラルスピリッツに天然のボタニカル、または香料を加えて濾過して作るので、色付きのものもあれば透明なものもあるようです。


ついでに、その他のジャンルにおいて「ジン」と名前のつくものがありますのでご紹介します。

e.スロージン(”SLOE GIN”)
スローベリー(”sloe berries”)の香りが主な特徴のリキュール/コーディアル(アメリカでは重量比2.5%以上の糖分を含む、様々な蒸留酒をベースに副材料を加えて作られるお酒)。


こちらはリキュールの項目にあります。ジンと名前が付いていますが、ジュニパーベリーへの記述が一切ありません。

f.フレーバード・ジン(”FLAVORED GIN”)
1.ジンをさらに天然由来の原料で香り付けしたもの。糖類の添加が認められる(恐らく重量比2.5%未満。超えるとリキュールになる)。30%以上のアルコール濃度で瓶詰めされる。
2.「フレーバード」というタイプと、主な原料の名前を明記すること。
例:ライムが主な香り付けの場合「ライム・フレーバード・ジン」
3.最終的な製品の2.5%までならワインを加えてよい。その場合ワインのタイプと比率を明記すること。


こちらはフレーバード・ジンという独立した分類になります。
通常のa.〜d.「ジン」の項目に加糖の記述がないため、前回「ジンとは何か?(3)」および今回の連邦規則集で触れた「オールド・トム・ジン」はここに含まれるのでしょうか。しかし、連邦規則集では”ディスティルド・ジンに含まれる”とあったので、これは別の項目でしょうか?ちょっと不明瞭です。
また3.のワインの添加についてはEUでは触れられなかった独特な項目ですね。現代においてワインを加えて作られるジンは少数存在します。



アメリカにおける、ジンの定義はこのくらいにしましょう。
次はいよいよ、我が国日本の定義について説明します。


引用・参考

ブログ”alcademics”より、アメリカにおけるジンの発売年表(2014)
https://www.alcademics.com/2014/06/the-us-gin-launch-timeline.html

アメリカ合衆国連邦政府 連邦規則集より
蒸留酒の基準とアイデンティティ(1969,§5.22の箇所)
https://www.ecfr.gov/cgi-bin/text-idx?c=ecfr&rgn=div5&view=text&node=27:1.0.1.1.3&idno=27

アメリカ合衆国財務省 アルコール・タバコ税貿易局より
蒸留酒の階層的定義(2007)
https://www.ttb.gov/images/pdfs/spirits_bam/chapter4.pdf

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