何回言ってもワイヤレスにしなかった元恋人が、今の恋人から貰ったair pods proをストーリーにあげてたって話
「誕プレで貰ったw一生大切にする!」
ストーリー特有のかくかく繰り返されるエモートに、真紅の綺麗なネイルが写りこんでいた。
なんてことはない。普通のよくあるストーリーだ。別れたのなんてのはとうの昔も昔。それ以降特に連絡を取ることもなかったし、私もそれから何人かと付き合った。 でも、その男たちとは何故か半年過ぎたころに別れる。私から別れを告げる時もあったし、さよならを言われることもあった。そのたびに傷ついたし、今考えても本気で好きだったと思える人もいたなと思うが、どうにも上手く長続きしなかった。
そんな私が1年以上続いたのは後にも先にもこいつだけだった。
私は初めての彼氏で、やつはそれまでに1人、付き合ったことがあると言っていた。でも手も繋がなかったと言っていたから私たちは人生で初めて味わう気持ちや感覚、感情、初めて行く場所や初めてすること。そういったことを二人、歩幅を合わせて、確かめるようにして進んでいったんだと思う。手を繋いで、少し引っ張られながら、でも同じスピードで。そうやって私たちは互いのことを深く、知っていった。
付き合いが深くなるにつれて、やつはこだわりが強い、ということが分かった。例えば手が塞がるのが嫌だからリュックしか持たないとか(でも手を繋ぐのは好きらしい)、帰りの電車は絶対前から二両目とか(違うところに乗るとなんかむずむずするらしい)。なんか自分で自然と決めたルールを徹底するやつだった。
だから私が何回言っても、あげるからと言ってもワイヤレスイヤホンはいらない、とずっと言っていた。
「無線だと音質悪そうだから」「絶対無くすから」
そして最後に絶対言うのがこれ。
「無線だとイヤホンなおす時にぐるぐるできない。あの工程がないと気持ち悪い」
音質悪くないよと言って私の使っていたやつを耳に無理やりねじ込んでも有線には敵わないの一点張り。首にかけれるやつもあるみたいだよ、と言っても見もしないうちにあれはダサいと一蹴。極めつけにはデートでの待ち合わせで会った途端に、奮発して買った初代air podsをつけた私に向かって開口一番に
「耳からうどんwwwwww」
と言いやがった。それを言われてから私が奴にワイヤレスイヤホンを進めることは二度となかったが、その日に水没させてしまったために私がやつの前でワイヤレスイヤホンをすることも二度となかった。
そっからはよくある理由。ほんとに好きかどうかわからなくなった、と。どちらから言いだしたのか。もしくはどちらも思っていたのか。円満、の別れなんてものがあるとは思ってはいないがどちらかが一方的に、というわけでもなくやつとは別れた。
そんなあいつが(恐らく)今の彼女から貰ったair pods proを、あのくそださかくかく加工で世に発信している。
このなんとも言えない不快感に当てはまる気持ちを表す言葉を探すも見つからない。未練とか、まだ好きとか、そんな重いものでもなければ、嫉妬とかいうどろどろしたものでもない。 しいて言うのであれば、なんかあれだな、という感じ。うん。なんか、あれだわ。
あ、あとちょっとむかつく。
お揃いの何かをしたいね、と言って結局そのまま別れたな、なんてことを今更に思い出す。
「今更お揃いになってどうすんのよ」
まぁ、そんなこと言ったら世界中の人とお揃いになってしまうんだけれど。 きっと明日には忘れてしまうこの感情は、消えてしまうから少しの魅力をはらんでいるのだろうか。
自分に酔っていることを自覚して、気持ち悪くなりながら掻き消すように電気を消す。そんなことを考えながら眠ったせいか夢に出てきたあいつはこう言っていた。
「有線はなおす時にぐるぐるするのがめんどくさいんだよねぇ~~~ww」
死ね。
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