10歳から人生が変わった!

今から50年前のお話。
10歳の時の思い出。今思い出してもあの濃い、1年が私の人生の原点だったようにおもえる。

1️⃣「こばと寮に入る」の巻      

「ひでこー」「ひでこー、どけぇおるん?」
 少し鼻にかかったその声はほ、コンクリートで作られた、三階建ての建物全体に、響きわたる。ひでこのかあちゃんが帰ってきたのだ。 白衣と呼ぶのもしのばれる茶色のシミだらけの仕事着のまま、天ぷら油とお魚の匂いがまざった独特の残り香が、廊下中に蔓延している。その声が聞こえてくると、私は自分の部屋から出て階下に降りていくのが、日課になってきた。
 ここは、母子生活自立支援センター、昭和40年代のその頃は母子寮とよばれていた、岡山県の小さなまちの駅裏にあるその建物には、「母子寮・こばと寮」と大きな木の看板がかかげられていた。離婚や未婚でわけありの母子がこの真四角の3階建ての施設に暮らしていた。当時は12組で満室の作りになっていた。
 そう,我が家も訳ありになったのだ。 
 一学期の終わりに両親が離婚。いわゆる母子家庭になり、行く宛のない母は、行政のお世話になり,ここに入ることになる。私は小学校5年生だった。家庭という基礎が壊れるということが理解できず、まだ親の離婚がうけとめられないまま、夏休みに、ここに来た。
 十日経ってやっと,ここに住んでいる人たちのことかわかりはじめ,母が仕事に行き、1人になる私の夏休みは、そのなんとも個性的な住人たちの人間ウォッチングに没頭したのであった。

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