10歳から人生が変わった。その4

貞子ちゃん
 貞子ちゃんは、私と同じ小学五年生だが、とても大人びてみえた。
 長い髪の毛を三つ編みにしていて、声のトーンも低く,笑っている顔が笑顔に見えない不思議な人でした。
「同級生だね、よろしくね」と私が言うと,鼻でクスッと笑いながら
「何をよろしくされたかわかんないけど、同級生は事実だわ」とボソッと言い部屋へ消えた。
 夏休みでも彼女はあまり部屋から出ず,あんまり会うことも話すこともなかった。
 しかしある日の出来事から、本当の彼女を少し知ることになったのだ。
 その日はとても暑い日でいつもなら夜入るお風呂を,我慢できず早い時間に入ったのだ。
 誰もいないと思ってお風呂場を開けると貞子ちゃんがいた。咄嗟の出来事でびっくりしたのか慌てて裸を隠そうとしたが,私はしっかり彼女の裸を見てしまった。そして,衝撃が走った。そう,もう大人の人みたいに胸がしっかりあり、なんと陰毛も黒々とはえており、私のガリガリで、胸も陰毛もない体と全く違ったのだ。どこに目をやっていいのかドギマギしながら目線を下にすると、彼女のももが打ち身だらけのあざのような傷と、激しい火傷のあとのような見るのも痛々しい体だったのだ。だから誰にも会わないように,早い時間にお風呂に入ってたのか・・・
「小さい時の怪我の跡が治んなくて」と咄嗟に湯舟に浸かって体を隠す貞子ちゃん。
「そうなんだ、私がびっくりしたのはもう、胸も大きいしおちんちんの毛もふさふさ生えてて、そっち、そっち」と、私。
「なんだそっちか、ははは〜っ!
 もう生理もきたよ」と貞子ちゃん。
「すご〜、本当の大人じゃん」と私。
「あんた、面白いね。同級生だし、私たち気が合うかもねー」
 と言いながらも、決して湯船から出ようとしない貞子ちゃんにハッとし、
「今日暑かったから、カンタンシャワーしたかっただけ、お先に」と急いで出た。
 なんだかドキドキした。それにしてもひどい傷、思い出しただけでもドキドキする。誰かに殴られたのか、いじめ? 考えるだけでどきときする。
 その日は、母の帰りを待って、開口一番、
「あんな、貞ちゃんがな、あんな、えとな、
 お風呂で、会うたんじゃけどな、なんか凄い傷だらけの身体じゃったんよ、それにな、おちんちんの毛もいっぱい生えとってな、おっぱいもおかあちゃんくらいあるんよー、同級生なのにびっくりじゃー」と一気に話した。
「世の中にはいろんな人がおるんよ、おんなじ歳でも発達もいろいろ.でも傷のことはなんか理由があるんかもな、人に見られたくないから早い時間にお風呂に入ったんかもな、あんまり触れてほしくないかんじだから、あんたもあんまりジロジロみたり、人に言ったらいけんよ」と母が低い声で真面目に言うので、もう貞ちゃんの話には触れないようにした。 貞ちゃんのお母さんは、あんまり人と喋らない人だった。ただなんでも貞ちゃんに1人でさせていた。だから料理も洗濯も貞ちゃんはなんでもできた。それを見てるから余計お姉さんに見えた。
「母子家庭だからと馬鹿にされたくないし、いつかは貞子一人になるんだから、なんでも一人でできるようにさせてる」といつだったか全体会議の時に、話していたのを思い出した。実は私たち親子が母子寮に入った時に、
 入居者全員の全体会議が開かれ、自己紹介をしあったのだ。その時に、同級生なら心強いと、私の母が言うと、
「誰とも仲ようせんから、うちは。人ほど信じられないものはないほっといてください」
 と言い放ったのだ。貞ちゃんの裸を見た時言い放ったお母さんの言葉が頭の中で聞こえてきた。ただ貞ちゃんはなんとなくだけど、
 私を求めている、目がもっと話してと言っているような気がして、なんだか、関係のないテレビの話など脱衣場から一方的に喋って、貞ちゃんが、「うち、もう出るね」っていうまで、必死で喋ったのでした。
 とにかく貞子ちゃんのママは、1人でも生きていくことができるように、貞子ちゃんには厳しく、私たちよその子どもにも、厳しく接していた。なぜ彼女がそんなふうになったのか、誰とも話さないので、いろんな憶測が飛んでいた。夫の暴力や子どもへの虐待から逃げてきたのではないか、もともと未婚の母なのでは?などなど。きっと貞子ちゃんママの耳にも入っているはずなのに、いつも毅然として笑顔一つも見せない人だった。
 時々貞子ちゃんが寂しそうな表情をするのが気になっていたけど、私も結局二学期間しかおらず仲良くならない間に引っ越ししてしまった。彼女はいまどうしているのかな?1人で生きていないで欲しいとなんとなくそう思った。

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