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それぞれの夜行秘密。「夜行秘密」初読の感想

大好きなバンドと、ちょっと気になっていた作家さんがコラボして小説を出した。
発売日は7月2日なので、厳密にいうと「発売する」の方が良いのかもしれない。

あなたの後悔がよみがえる
激情の恋愛譚
決断をしては傷つけ合う
「それは、彼女と僕だけの秘密です」
なんか、いかにもindigo la Endっぽい感じだな、と思った。

後悔、喪失、思い出、雨、美、朱、蒼、そして夜。
わたしの中のindigo la End像と一致する部分がかなり多かった。
indigo la Endの曲をベースに書かれているのだから、当たり前と言ったら当たり前な気もするが。
だから小説もきっと、わたしの想像に近い内容になっていると、烏滸がましくも思っていた。

発売日より2日も早く届いたので、さっそく読んでみることにした。
平日ど真ん中の水曜日。
ほぼ定時で仕事を終え、夕飯もいつもより早い時間に済ませた。
アイスコーヒーを淹れて、いざ読書。

アルバムの曲通りに物語が進んでいくのかと思いきや、全くそうではなかった。
夜行、左恋、夜風とハヤブサ、フラれてみたんだよ・・・まるでアルバムをシャッフル再生しているような並び。
アイスコーヒーを淹れたのをすっかり忘れるくらい、ページをめくる手が止まらなかった。

ページをめくるたび、曲名が変わるたび、わたしの予想だにしない方向へと物語が進んだ。
「え?これどうなっちゃうの?」と混乱しつつも無心で読み進めた。

「それは、彼女と僕だけの秘密です」
最後のこのセリフを読み終えた時は、午前2時前だった。
読み終えたと同時に、どっと疲労感に襲われた。

「だから小説もきっと、わたしの想像に近い内容になっているんじゃないか」なんて、烏滸がましいにもほどがあった。
穴があったら入りたいくらいの恥ずかし発言だ。
カツセさんが見た夜行秘密には、わたしの経験したことのない出来事や知らない感情ばかりだった。
重油のようにドロドロで、血のように赤黒くて、軽蔑するくらい人間臭くて、そんな物語だった。
失うことって、後悔することって、こんなにも重い感情なんだ。

「夜の先に春はなかったみたいだ」
「君とはナイトクラブで終わりにしようと思ってた」
「まさかの言葉で終わりを迎えてロンリー」
「私負けたんだね」
「さすらうのは予備の心 ほんとうはもう此処にあらず」
「喜んで喜んで そろそろ休めるよ」
「考えたかった 想いたかった 恵まれた場所で何を言うか馬鹿者」
「賭けてばっか 負けてばっか こんな人生買ってちょうだい」
「演じないとさ 好きでいれない時もあるよ」
「終われないって私がいくら嘆いたとて あなたは首を横に振る」
「切ない想いは心の中で 飼い慣らせない夜光虫さ」
「不思議なまんま生きてく向こう岸が 明るい保証はないけれど」
「消しても消しても消えない 背負うほどでもない罪」
「あなたを知らずにいたかった」

読み終わって改めて目次を見ると、曲の一節が頭をよぎった。
「あぁ、そういうことか」とすべてが繋がったように感じた。
同時に思ったのが、わたしにはわたしの、indigo la Endにはindigo la Endの、カツセさんにはカツセさんの夜行秘密があるんだということ。
人の数だけ思い出や後悔があって、思い出や後悔の数だけ物語があるんだということ。
最近読んだ、朝井リョウさんの「正欲」とも少しリンクする箇所があるように感じた。

まだまだ咀嚼不足だし、消化不良もいいとこだけど、初読の感想としてはこんな感じかしら。
大好きな曲たちが姿を変えて自分のもとに届くという経験は、感動ものだった。

夜行、夜風とハヤブサ、華にブルー、チューリップあたりが個人的には(いろんな意味で)印象的だった。
不思議なまんまからクライマックスに向かっていくような感じでハラハラが止まらなかった。

こっちに行ってたらトゥルーエンドだったのかな。
ゲームみたいにやり直せたら。
こうしていれば、そうしていれば、ああしていなければ。
後悔したとき必ず頭に浮かぶ「たられば」。
こんなにも切なく儚く脆い感情は、他にはないんじゃないかな。
人生って重いなあと、思った深夜2時でした。


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