元カレのCDを30円で売った話
バンドマンの元カレと別れたので、CDを売りに行った。
御茶ノ水のディスクユニオンに。
入り口が迷路のようでどこから入るのか散々迷った挙句、業者が出入りする入り口から入ってしまった(絶対ここじゃないだろうなと思いながらインターホンを押して入った。恥ずかしかった)
15分の査定の結果、元カレのCDは30円で売れた。
30円。
3枚売ったので1枚10円である。
彼のバンドはお世辞にも売れているとは言えなかった。
ちらほらと固定のファンがいて、下北沢や渋谷の小さいライブハウスで活動しているバンドだった。まあよくある話である。
時は1年前に遡る。
私は当時付き合っていた同業の彼と2年の遠距離恋愛の末別れ、少し荒れていた。
見かねた友人が気晴らしにと連れて行ってくれたクラブで彼と出会った。
クラブで知り合った上に職業バンドマンという、30歳を目前に控えたまともな女は付き合わないであろう案件にうかつに手を出してしまった時点で、私の将来への計画性の無さが浮き彫りになっている。
しかし、彼と付き合ったことで3B代表のバンドマンへの見方が変わった。
まず、バンドマンがモテるというのは人による。
全然モテないバンドマンもいるし、入れ食いなバンドマンもいる。
あと傾向としてギターとボーカルはモテる。
ただ、ほとんどのバンドマンはみんな音楽に対して真剣なので、そのひたむきさはどのバンドマンも魅力的にうつると感じた。
そのせいか、周りにいる女の子たちの層も独特な雰囲気だった。
同じように夢を追うバンドマンの子、尽くすのが好きな劇場型の子、パトロン体質の子、崇拝型の追っかけ…といった面々である(実際は他にもいろんなタイプがあると思うが私が見たのはそんな感じだった)
私は医療従事者なのだが、同僚や先輩後輩にはあまりいないタイプの男女ばかりで、とても刺激的だった。
もう一つはバンドマンは結構時間がないということ。
前提としてたいていみんな金がないので、バイトに明け暮れている。
バイトの後は個人練習をしたり、バンドで合わせをしたり、曲を作ったり…となかなか忙しそうだった。
金もなく四畳半でダラダラ寝っ転がってるイメージだったので(失礼)、みんなかなりストイックだなと感じた。
そんな中でも週に1,2回は会う時間を確保してくれていたので、彼にはちゃんと好かれていたんだなあとは思う。
まあ結局、将来の方向性の違いにより、我々の一年にわたるジャムセッションは幕を閉じたわけなのだけれど。
聖橋を渡る。
手のひらの30円を見ながら、彼を思い出す。
中学生の頃からの夢を叶えるために毎日ひたむきに頑張っていた彼。
時に悩み、時にぶつかり、時に笑いながら過ごした一年だったなあと思う。
ギザ10が3枚一気に集まったくらいにはレアな経験をした。
手のひらの中で温かくなった30円を、神田明神の賽銭箱に放った。
二礼ニ拍手。
手を合わせ、今なら、純粋な気持ちで彼のバンドを応援できそうな気がしたが、売れたら売れたでムカつきそうなので特にお願い事はしなかった。
恋心の供養が終わり一礼する。
おセンチな気分で神田明神を後にしたが、家に着く頃にはハーゲンダッツの新フレーバーのことを考えていた。
次はCDを売らないで済む人と付き合いたいと、切に願わん。