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インド夢の中へ 1



*到着の日

 私はバンガロールの空港に着いた。できたばかりの空港で、閑散としている。
しかし出口にはたくさんの出迎えの人がいて、その中にIndiranagar Sangeetha Sbha という音楽学校の名前と私の名前を書いた紙を持った若者がいた。
来る前に世話役の人とのメールのやり取りで、空港から学校への行き方を教えてくれと言ったところ、「誰か迎えに行く」という返事だった。
学会が始まる日の朝なので、タクシーで行くと言ったのだが、「心配しなくて良い。誰か迎えに行く」と言われた通り来てくれたのか。
しかし、その若者に「学生ですか?」と聞いたら、タクシーの運転手だと言う。
学校関係者ではないところに少し不安がよぎるが、運を天に任すしかない。
若者は駐車場から車を取ってくるからここで待てと言う。

そして車が来たら一人の若くない男が現れ、当然のように私の旅行ケースをトランクに入れ、手荷物を助手席に置いた。
この人が運転するのか?とまた不安になったが、元の若者が運転席に座ったので安心した。しかし荷物を入れた男は当然のように「チップ」と言って立ち去りそうにない。空港で両替したばかりの財布を見ると、全部50ルピー以上の単位だった。「私はインドの小さなお金を持っていない」と日本の百円玉を差し出すと、当然ながら「使えない」と言い、「それ」と見えている財布を指差す。と、運転手の若者が運転席から男に10ルピー渡した。それで男は去り、車は走り出した。

 私は持ってきたインド旅行案内の本の地図のページを開いた。どこをどう走っているのか知りたい。目印の空港から辿りたいところだが、空港が書いてない。
車はスピードを出している。他の車もクラクションを鳴らしながら飛ばしている。「遅れてもいいので、あまりスピードを出さないでください。」とは言ったが、運転手に通じたかどうか。

 30分くらいでホテル·トリニティ·インに着いた。大通りに面したホテルで、そばにキリスト教会があった。本当にこのホテルなのだろうか。来る前に日本で地図を見ると、同じ名前のホテルが3つあった。その時もメールで主催者側に問い合わせたが、来ればわかるという返事だった。本当にここなのか? 
ともあれ運転手に待ってもらってチェックインしたが、フロントで当然のように受付けたので、ここであっているのだろう。荷物を置いてまた乗って音楽学校へ付けてもらった。


音楽学校の玄関ホール

 丁度ティー·ブレイクだった。登録をして会費をドルで払う。ホテルは一泊1500 ルピーだと学会の案内に書いてあったのに800ルピーでいいと言う。6泊分払って名札をもらう。
首から札をかけているとファーストネームを疑問符をつけて呼ばれた。私が名前をいうと、「私はシャンタです。歌という意味です。日本に行ったことがあります。」と矍鑠としたおばあさんが言う。音楽の好きな人がインド各地から集まってきているようだった。

受付に「Dr.Balasubramaniamはどこですか」と言うと、「彼も探していた。あなたと昼食を食べるつもりだ。」と言った。
やっとメールをやり取りしていた彼に会う。誰かに似ている。
「日本からです。」というと、「そうだと思いました。私はバラスブラマニアムです。飛行機は遅れませんでしたか?」と彼は言った。
「空港までのお迎えありがとうございました。」などの挨拶を交わした後、私は誰かに紹介された。後から思うと音楽学校を経営しているトラストグループのクマール氏で、その後一族のクマールという苗字の人に散々会うことになるのだった。

 午前のお茶の時間が終わってセッションを一つ聞いたら、昼食になった。
運動場のようなところで立食である。お皿を持って並んで野菜カレーのようなものを付けてもらう。
インド人夫妻が話しかけてきた。男性の方はポール·ニューマンがインド人だったらという感じの風貌だった。午後22音の話をするので是非聞いてくれという。

午後一度みんなバスでホテルに帰るということになった。
デリーから来たウッポラという美人が「日本に妹が山登りに行った」と話しかけてきた。パンジャビスーツにスカーフを長く垂らしている。彼女は民謡の春の歌を研究していると言う。日本の宗教について、またそこで歌われる歌について聞いてきた。日本の宗教の音楽というと、祝詞、声明、雅楽などだが、声明は日本語中国語サンスクリットもありますなどと言っているうちに、またバスで会場に行くと、イブニングコンサートをやっていた。カルナティック·ヴォーカル·リサイタルだった。この歌声の旋律とリズムが毎日流れてしばらく耳から離れないようになるのだった。

九時頃またスクールバスでホテルに送られたのだが、皆夕食のことを気にしていない。ガンガというチェンナイから来ている女性研究者がホテルの隣のサンドイッチ屋に連れて行ってくれた。ガンガとはガンジス川という意味だという。
「ビールはないのかしら」と私はつぶやいた。ガンガたちは多分酒類は飲まない人たちのようだったが、親切にも店に聞いてくれた。そしてこれで我慢してと言うようにオレンジジュースを持ってきてくれた。  


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