エリック・ロメール『春のソナタ』~「四季の物語」シリーズより~<部屋>をめぐる映画
エリック・ロメールと小津安二郎の映画は、見た時に内容を書いておかないと、後でどんな映画だったか分からなくなる。それぐらしい各作品が同じようであり、同じスタイルを貫き続けている監督とも言える。
エリック・ロメールの「四季の物語」シリーズの第一作「春のソナタ」。ジャンヌ(アンヌ・ティセードル)は高校の哲学教師であり、恋人は出張中のため彼の部屋で一人でいるのもイヤで、自分のアパートの部屋に戻ってきたところ、数日間いとこに貸していた部屋は延長して貸して欲しいと言われ、自分の居場所がなくなってしまう。そんなとき、パーティーで偶然出会った女性ナターシャ(フロランス・ダレル)の家に誘われ、ナターシャの父の部屋を間借りすることになる。彼氏の雑然とした部屋から自分の部屋へ、さらに友人の父の部屋へと、部屋から部屋へとジャンヌは移動する。さらにナターシャの誘いで、郊外の花咲く庭のある別荘の部屋へも移動する。いつも通りアクションはあまりない。この映画は移動もあまり見せず、ほとんどが部屋の中で映画は展開する。
会話劇で成り立っているエリック・ロメール映画は、哲学教師で理屈っぽいジャンヌと音楽学校に通う感情的なナターシャの会話を中心に、ナターシャの父、その恋人、それぞれの人生観、父と娘の関係に嫉妬や疑心、恋愛観が複雑に絡まり合い、意見の食い違いやちょっとした諍いが起きる。それも大きな事件ではなく、ささやかな日常の諍いでしかない。
ナターシャはファザー・コンプレックスで、母親と別れた父の現在の恋人エーヴ(エロワーズ・ベネット)のことが気に入らない。父イゴール(ユーグ・ケステル)はエーヴと同棲中であり、滅多に家に帰ってこない。父が自分にプレゼントしようとしていた祖母の「真珠の首飾り」が紛失し、それをエーヴが盗んだとナターシャは疑っており、二人の不仲を父は修復しようとする。しかし、別荘に行った時のエーヴのタバコをめぐってナターシャと言い争いになり、不仲は決定的になる。ナターシャは、ジャンヌに父の新しい恋人になって欲しいと願い、別荘にやって来た恋人とともに姿をくらまし、ジャンヌと父を二人きりにする。父イゴールは、二人っきりになってジャンヌを口説こうとするのだが、そのことでジャンヌとナターシャは後で揉めるのことになる。しかし、偶然「真珠の首飾り」が父の靴の中から出てきたことで、二人は和解する。
関係が複雑に絡まり合っているだけで、たいした物語ではない。部屋で一人で過ごすのか、誰かと過ごすのかによって、関係は変化していく。パーティーのような多くの人がいても孤独だったり、顔を合わせば諍いが起きたり、会いたい人、会いたくない人、人間はいろいろと面倒くさい。同じ部屋にいるということは、何かしらの心理や感情の変化が起きるし、それが関係を変化させる。そんな部屋をめぐる物語と言える。