ゴシック・ホラーの傑作『ザ・フォッグ』ジョン・カーペンター監督
これはまぎれもなくホラー映画の古典的傑作だろう。「ジョン・カーペンター レトロスペクティブ 2022」にて、4Kレストア版でリバイバル上映。霧とともに現れる亡霊たち。誕生100年を迎える美しい入り江の港町アントニオ・ベイ。岬の先端の灯台からのラジオ放送、DJの女性の語りを軸に、100年前に霧で船が難破して金品を奪われた者たちの怨霊が、100年の時を超えて町に襲い掛かる。
どうということのないストーリー。迫りくる霧と亡霊たちが次々と町の人たちを襲うだけの映画なのに、面白い。映像の力そのものを感じさせてくれる映画だ。夜の深夜0時から1時までという時間的制約。さらに闇夜に迫りくる霧の中でのみ起こる怪奇現象。そういう制約が効果的だ。冒頭から、子供たちに昔話を語る老人の声、セクシーなDJの女性の声と神父に起きる最初の異変、霧に襲われる船の上での恐怖。さらに神父が闇のなかからヌッと現れる描写や死体が動き出すまでの部屋の中と外のカットバックなど見事だ。霧で見えなくなるミステリアスな雰囲気と赤い目をした亡霊たちに襲われる恐怖。ハッキリと亡霊たちの姿が分からないのがうまい。ガラスが次々と割れ、扉をノックする音と鉤型の手がガラスを割って侵入してくる。霧に襲われる少年と老婆、教会と神父や式典に集まる人々。
淡々とした音楽は大袈裟に恐怖を煽るより効果的で、CGの映像加工技術もそれほど金がかかっていない。亡霊たちもスプラッター的な気味悪さや激しさはない。そんな古典的な演出は今でも十分楽しめる。しかも、この100年前の悲劇は、哀しみを抱えている。圧倒的な異物、異形なるもの、エイイリアンとしての恐怖ではなく、歴史の悲劇を体現した怨念なのだ。情緒的でもある。クラシック・ホラーとして見られ続けるべき作品だろう。