【命乞いする蜘蛛】682文字 ⑥
ここは5階にあるオフィスフロアの小部屋。会社の書類保管庫として使用されている。アルミ製のラックに青いファイルが隙間なく積まれ、昼間でも薄暗い。
入口のドアから二階堂が入ってきた。
倉庫の奥へ進み天井を見上げる。蜘蛛の巣。タランチュラのような蜘蛛が息を殺してこちらを見ている。二階堂は蜘蛛に話し掛けた。
「お前、先週桜の下にいたやつだろ?」
「なんでわかんの?お前見えるの?」
「見えるよ」
蜘蛛は引力に任せてボトっと落ちた。人間のような黒い影に変化した。右腕はロープのように細く長い。蛇のように空中をうごめき更に長くなる。
「俺とつながろうよ」
一瞬にしてロープが二階堂の首を囲んだ。二階堂はロープと首の隙間に左腕を滑り込ませる。首と腕がきつく縛られていく。
「くっ」
二階堂は腕に力を入れた。黒い影は背後の窓を全開にした。窓枠に座り足をプラプラさせる。
「ここから一緒に飛ぼうよ」
「断る」
影はロープを縮める。ズルズル…ズルズル…革靴と床が擦れる。影は目の前に来た。
「俺とお前は永遠につながるんだよwinwin」
影は窓枠から外へはみ出た。二階堂は右手で影の首を掴む。
「こんなんでつながれるわけねーだろ。俺はいいねを押さない!」
「なんでだよ!」
二階堂は親指で首の側面を強く押した。
「5・4・3」
「やめろっ!消さないでくれっ!!!」
「2・1」
「さみしいよ…」
「ゼロ」
黒い影は一瞬発光して霧のように消えた。二階堂の右手にはガラケーの携帯だけが残った。
ブーン、ブーン
着信音が鳴った。ジャケットの内ポケットからスマホを出す。
「山本さん、おつ」
「二階堂くん、やっとつながった!今からお昼行かない?」
今回のお題は悩まずにスラスラ書けました。昆虫サスペンスになっているかな?ちょっとハラハラして頂けたなら嬉しいです✨