【創作】蟻達の葬列
ある日タクミくんが、僕達が住んでいる家に水を入れました。
とくとくとく、
とくとくとく。
そんなものじゃ僕の家は壊れません。雨が降っても壊れないのですから。
でも、家にあと少しで入るはずだったお兄ちゃんたちは、タクミくんのジョウロのせいでどこかへ流れていきました。
僕はお兄ちゃんたちと、もう会えないかもしれません。
その日の夜は、細長い月が出ていました。
月は細長くも、散りばめられた星の中に堂々と、夜を照らしていました。
僕はお兄ちゃんたちが、この綺麗な月を見ていたらいいなと思いました。
もし見ていなくても、どこかで元気でいてくれたらいいなと思いました。
すると細長い月はさらにすーっと細くなりに地上に伸びてきました。
どんどん細くなったそれは蔓のように垂れ、ただキラキラと自分の存在感を示すように輝きます。
あぁ、きっとここに登れということか。
僕は月の気持ちがわかり、小さい六本の足で登り始めました。
月は思うほど冷たくはなく、砂の上よりも歩きやすい表面でした。
すると僕だけじゃなく、弟たちも登り始めました。そして僕たちの列はどんどん伸び、地上へ黒い鎖が垂れているようでした。
足元が白くキラキラと光る中、僕は悟りました。
きっと水に流れたお兄ちゃんたちは、死んだのだろうと。
そしてきっとこれは、月のせめてもの弔いなのだろうと。
月へと伸びる列の長さは、お兄ちゃんたちへの想いでした。
月に到着すると噂通りうさぎがいました。
うさぎはお坊さんの格好をして、お兄ちゃんたちのお経をあげてくれました。僕たちは月面に敷かれた小さな座布団の上に座り、お兄ちゃん達を思いました。
タクミくんは遊び半分でしたが、そのせいでお兄ちゃんはたくさん死にました。僕はそれが許せません。
「月さんお願いします。タクミくんを懲らしめてください」
細い月は頷くようにキラキラと光っていました。
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