【創作】静かな奈落
君は、地獄がどんな場所か説明できるか?
郵便局の隣のお寺さんにある掛け軸みたいなところ?
いんや。そんな分かりやすいもんじゃあないよ。
針山地獄、血の池、賽の河原、よく聞くやつね。
いやいや、そんな分かりやすい罰だったらむしろ親切じゃないか。あれは罰を与えるためのものって誰もが分かるからね。
地獄はね、うんと静かなんだよ。
とっても、とっても。
全ての空気が底をつたうんだ。風はぬるい。
奈落の底ってのは空気が冷たそうだろ、いや、ぬるいんだ。
君はな、そこでは何も理解できないんだ。
到底君の思いつく限りの考えを巡らせても、辿り着けないんだよ、答えには。
もし地獄に来ても、誰も説明してくれないんだ。
何故君がそこにいるのかも、
何故そこに電車が通っているのかも、
何故夜が明けないのかも、
何故人の住まない家に灯りがついているのかも、
何故グリコをしている女の子がいるのかも、
何故あと一匹蟻地獄が見つからないのかも、
何故月が笑うのかも、
自分が何をしたのかも、
いつそこから出られるのかも。
僕が地獄に行ったことがあるかだって?
そらぁ、うん、想像にお任せしますよ。少しは自分で考えてください。何でもかんでも僕に聞かないでください。
分からないって不気味で、奇妙で、魅力的で、怖いだろう。分かれば怖くないんだよ人間。
「はい、これがそうです」っと言われれば「はい、そうですか」でスッと入ってくるだろう。
え、僕が誰かって?それも自分で考えてくださいよ。
とりあえず君に教えておきたいのは、地獄は君の想像以上に理解ができなくて静かな場所ってことだよ。
落ちても気づかないかもしれないね、うん。