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We Will Rock You #シロクマ文芸部


「赤い傘をさす人間は、そんな多くないんだな」
雨降りの午後、雲の上では鬼たちが下界の傘事情を窺っている。

「オレ赤好きだから、人間だったら絶対赤い傘さすけどな」
梅雨の予行練習かのように、
数日おきに雨天のこの時期は、落雷の役目を担う鬼たちが浮き足たつ。

「赤い傘って差し色として綺麗だけど、余程センスよくないと服と合わねえんじゃねえの?」
夏が近づけば落雷が多くなり、鬼たちの稼ぎどきであるからだ。

「親父が言ってたけど、青い傘さしてる人間が日本では一番多いらしいよ。黒とか透明な傘もよく見るよな」
落雷のタイミングはそれぞれの鬼が勝手に決めて良い。
ただ、その中でも積乱雲の発達具合、雨の降り具合、時間帯など細かい条件を考慮したうえである。

「あーオレたち今日ノルマ達成できるんかな」
雨の降り具合を測る一つの方法として、傘をさす人間の数を目安にする。このくらいの数の傘を目視できれば落雷1回、という具合である。

「雷神社毎日お参りしてるし、いざというときは雷様が来てくれるよ」
鬼たちを携えてるのは、もう何百年も何千年も生きた雷鬼のトップ雷様だ。

「雷様の姿、いつか拝めたらいいよな」
雷様は、雷神社のご祭神で姿はほとんど見せない。

「ま、今日は同じ色の傘3回見たら1回落とす感じにしようぜ」

青い傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
「やっぱり青い傘は多いんだな」

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
「急な雨で傘買ったんだろうな」

黒い傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
「サラリーマンは黒い折り畳み傘多いな」

青い傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
「青い傘男女限らずさしてんな」

黒い傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
「いや、性別関係ないだろ」

鬼たちはまだ緩やかな雨足と同じようにゆるゆると雑談しながら雷鳴を響かせる。
「でも赤は女の色、青は男の色ってイメージない?トイレの看板もそうじゃん」

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
「お前多様性って知らねえの?最近男とか女関係なく使えるようにだれでもトイレ置くところ多いらしいぜ」


ゴロゴロゴロドッカーン!

「そうそう、多様性の時代。男女平等。昔は男の鬼だけ落雷の仕事をさせてもらえなかったけど、女の私だって負けてないかんね」

2人の若鬼とは比べ物にならない雷鳴を携えて、ショートカットの波瑠似の鬼が現れた。

「お、鬼子お前いつの間に!」


鬼子はこの地域では雷落としのトップだった。
様々な落雷の条件を細かく頭に入っており、雑談などせずタイミングよく雷を落とし、落雷の数は若鬼2人の落雷数を足して足元に及ばない。

「今日はもう50回は落としたね。あんたたちがあーだこーだ話してる間にね。せいぜいノルマはクリアするようにね」

若鬼たちはここ最近ノルマの雷落としを達成しておらず問題視されていた。

そこで若手エースの鬼子が、
この2人のサポートに来たというわけだ。

「確かにオレたち今日ノルマ達成しないと雲洗いの部署だもんな」
若い鬼たちは真剣に業務を行ってなかったにも関わらず、顔に悔しさを滲ませる。


「くそ、雨足がもっと強くなれば!オレ速さはあるんだよ。傘の母数が増えれば……。神様一生のお願いです、雨を強くしてください……!」

ポツポツポツポツ……ザッザーーーーーーッ。

毎日雷神社に参拝しているからか、
別に何も努力もしていないが若鬼たちの願いは叶い
雨音が強くなる。


透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。

黒い傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。

「急に透明な傘増えてきたな」

「お前あれだよ、ここらへんコンビニあるから突然雨に降られて急に買う奴がいるんだよ!」

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。

「このテンポ、なんかに似てねえか?」

黒い傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
ズンズンチャ

透明な傘、1本、2本、3本ゴロゴロ。
ズンズンチャ

ズンズンチャ

ズンズンチャ

どこからか野太い声が聞こえる。

Buddy you're a boy make a big noise

Playing in the street gonna be a big man some day
(おい少年、街でふざけてバカ騒ぎして、大物になる日を夢見てるな)

「フレディーマーキュリー?」


You got mud on your face you big disgrace

Kicking your can all over the place
(顔に泥なんかつけて、みっともない姿だ
どこへ行っても人の気を引こうとしてやがる)


「雷様……だ」

目、鼻、口、頭、手、足、その全ての体のパーツが大きく牛の顔に金色に煌々と輝く体をしている雷様は、
もう雷そのものと言ってもいいくらいの輝きを放っており、
雷鳴の轟に負けないくらいの声で歌っている。

「これが……雷様。成績トップの私でさえ会ったことないのに」


雷神社に祀られている雷様は、Queenの大ファンであり、気まぐれに鬼たちの落雷仕事に現れたりするそうだ。
雷様が現れれば、ノルマクリアどころじゃなく1日で成績トップ並の落雷数を稼げる。

「Singing!(さぁ)」

「「「「We will We will Rock You!」」」」

歌が終わると先ほどの雷鳴が嘘のようにフェードアウトし、空は晴れ虹がかかった。
あの大きい雷様は最後の稲光と共に姿を消した。

雷様に力を借りた若者たちは、雲荒い部署を逃れ、
その月だけは鬼子の成績を抜かすことができた。

彼らは欠かさず雷神社を参拝している。


雷鳴が轟いているときは、
きっと空でWe Will Rock Youが流れている。


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