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【創作】本当の楽園



黙って聞いてりゃいけしゃあしゃあと。

いきなり話しかけてきたと思えば突き放すなんてあんたは何様だい、神様かい?

その場所が静かってんなら上の世界はどうなってんだい。


教えてあげるさ、私はあんたと違って親切だから。

上の世界はみんなが行きたがるんだよ。
みんながみんな、そこが自分にとって完璧な良い場所だと勘違いしているからね。
自分こそはそこへ行くべき人間だと思い込んで。
人間だけじゃない、動物だって自分はそこへ行くべきだと思ってるさ。だから鳥は空を飛ぶんだろう。


誰もが自分の罪に目を向けないで、もがいてそこへ行こうとするんだ。


でも。
上の世界が全ての者に対しての理想郷じゃないと私は思ってるよ。
誰しもが認める本当の楽園ってのは、おそらく存在しない。


綺麗で素晴らしくて欠点の一つもない場所、それが居心地がいいとは限らんだろう。
だから、おまえさんが良いと思えばそこがあんたの天国だ。


私は一度行ったことあるんだよ。
上の世界は綺麗だったさ。


その世界にある池は、水面に反射する光がうっとりするほど美しいんだ。
蜘蛛の巣でさえ金色に輝いていたさ。
美しさと怖さは表裏一体だね。
私にとって、上の世界は本当に恐ろしかったよ。


ついでだから教えてあげよう。あぁ、私は優しいね。
私は上の世界から堕ちてきたんだ。
気がつかないで堕ちてきたわけじゃない、自分の意思だよ。


上の世界よりこっちの方が良い。
私の天国はここさ。
ここは泥のように穏やかじゃないか。
ほら、あんた、もう膝まで泥に浸かっているよ。

いいかい、ここがあんたのいう「地獄」だよ。


はは、とぼけた顔して。
あんた気づかなかったのかい、馬鹿だねぇ。






土砂降りの中、くすり屋のオレンジ色の象人形に話しかけている女がいた。



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