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藁半紙の手紙と妖怪けむり #シロクマ文芸部


「ありがとう、この手紙を見つけてくれて。丘の公園に行ってみてね」

10歳になったある日、部屋の掃除をしろとお母さんに言われて勉強机を片付けていた。
すると、2段目の引き出しに、
まるで昔からそこにあったように、
少し黄ばんだ藁半紙が綺麗に畳まれて置いてあった。


誰がこんな手紙入れたんだ?

気味が悪かったが、掃除をするより丘の公園に行った方が面白いと思い、お母さんには黙って僕は手紙の通り丘の公園へ行った。

丘の公園の遊具を探し回っていると、もうずっと塗装されていないすべり台が目についた。
そのすべり台はさびついており、ここで誰かが滑っているのは見たことない。

すべり台の裏にはマジックで昔書かれたんだろうなという相合傘があり、ヒロシとアケミという名前があった。
その下に、裏に紙がセロハンテープで貼り付けてあった。

セロハンテープは少しカピカピになり、なんとか接着してある状態だった。

「ありがとう、よく見つけたね。小学校前の駄菓子屋に行ってみてね」

丘の公園から小学校は自転車で10分はかかるが、僕はめんどくささより好奇心が勝ち、駄菓子屋へ向かった。

お父さんが小さい頃からおばあちゃんだった、
と言われるおばあちゃんが店主の駄菓子屋に着き、歩き回る。
「たぁ坊かい。大きくなったねえ。お父さんのそっくりだ」
たぁ坊は僕のお父さんだ。
ここのおばあちゃんは多分ボケている。

埃のかかった妖怪けむりがなんだか引っかかり、1枚だけ買った。
その中に紙が入っていた。

「ありがとう見つけてくれて。君はすごいね。旧校舎で待っているよ。僕たちの、思い出の場所にいるね」

僕宛の手紙ではないんだろう。
旧校舎には思い出なんてない。
誰に宛てた手紙なんだろうか。 

小学校の旧校舎は今の校舎のすぐ裏にあり、
お父さんはこっちの校舎の時に通っていたらしい。

1階から3階まで僕は色んな教室を回った。

そこでお父さんが話していたことを思い出した。
「ヒロシくんて子が昔いてさ、
 掃除の時間にいなくなっちゃって、
 皆んなで隠れんぼしてて、ヒロシくんだけ見つけられなくて、そのまま」

背中にヒヤリと汗をかく。

そうか、今までの藁半紙は、多分ヒロシくんからの手紙だ。
そうか、お父さんと仲良かったのか。

つまり、あれはヒロシくんからの見つけてっていう手紙で、
ヒロシくんはきっと、この校舎で見つからないまま。見つからないまま…。

僕が探してあげよう、僕なら探せる。
僕は必死に探した。


理科室、音楽室、保健室、教室。

ある教室に入った時、ガタンと音がした。
それは、なんだか存在感を放つ掃除ロッカーからの音だった。

開いちゃいけない、
開いちゃいけない、
勝手に手がロッカーを開けた。

「なんだ空っぽか」
するとポンっと肩を叩かれた。

「やぁ、たぁ坊かい?」
「ヒロシ…くん?」
「やっと見つけてくれたんだね!」
青白い肌の笑顔が綺麗なその子は、きっと僕のお父さんの友達のヒロシくんだった」

「ごめんね僕のお父さんが君を見つけられなく…」
「たぁ坊だ。たぁ坊。僕をいじめたたぁ坊。
違うなぁお前アケミちゃんにも似てるなぁ。
あははははは、たぁ坊アケミちゃんと結婚したのか?
気持ち悪いなぁ」

さっきとは打って変わり、その子は僕の言葉を遮り捲し立てた。

「アケミちゃんを好きなことを皆んなにバラしたり、
駄菓子屋で妖怪けむり万引きを濡れ衣着せたり、
しまいにゃ隠れんぼ中に僕を見つけてくれなくて置き去りにしてくれたね。
わざとか?わざとなんだろ?
たぁ坊、許さないよたぁ坊。あぁごめん君はたぁ坊の息子か。ありがとう見つけてくれて。ありがとう。
でも許さないよ許さないよ許さないよ」

「ごめんなさい、僕はただ手紙を見つけてきただけで…」

「お前なんか殺してやる殺してやる殺してやる…」
首を絞められそうになった瞬間、
なんでか分からないが、僕はさっき買った妖怪けむりを差し出した。

「ヒロシくんごめん!本当にごめんなさい。僕はたぁ坊とアケミの息子で、ただお母さんに片付けろって言われたのが嫌だったからたまたま君の手紙につられてここにきただけで、妖怪けむり、妖怪けむりあげるから許して」

僕は妖怪けむりをあけ、なぜか夢中になって指につけけむりを出した。

「許すわけないじゃん。でも面白いね。
そっか、そうだよねアケミちゃんお母さんだもんね。
アケミちゃんと妖怪けむりしたの楽しかったなぁ」
ヒロシはさっきの鬼の形相が無くなり、無表情で妖怪けむりで遊び始めた。

「アケミちゃんに、よろしくね。見つけてくれてありがとう」

妖怪けむりの最後の煙が無くなると同時に、そいつはいなくなった。


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