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「クリスマスイブの夜に」 辻下直美創作童話

真っ白な雪がしんしんと、世界を白く塗っています。
子供たちはもうすっかり夢の中。
暖炉のあるリビングには着飾ったもみの木や、おもちゃの汽車のレール、積み木が散らかっています。

おや、なにやらカタカタという音が聞こえませんか。
リビングの隅のほうから聞こえるようです。
音は突然がた!としてキーという音に変わりました。

こんな静かな夜に一体誰の仕業でしょうか。
まさかサンタクロースでしょうか。

 「ふう。ようやく抜け出せたぞ」

 いいえ、違います。
音の正体は小さなハムスター、セルジョアの仕業でした。
セルジョアは今まさに檻から抜け出す事に成功したのです。
セルジョアはきょろきょろとあたりを見回すと、目的の場所まで走っていきました。セルジョアがたどり着いた場所はテーブルの下です。テーブルの足を登っては滑り落ち、また登っては滑り落ちるを繰り返します。

「どうすれば、机の上に行けるかな」

 机の上には大好物のジェリービーンズが小皿に入れられてあります。セルジョアはあたりを見回しました。リビングにはちらかったおもちゃがいっぱいです。

輪ゴムを引っかけて投げますが、足の半分にも届きません。
積み木を積み上げようとしますが、とうていテーブルの上までは届きません。
そんなことをやっているうちに、飼い犬のセント・バーナードのジョンが異変に気づいてやってきました。

さぁ大変!
ジョンは真面目な老犬で、檻を抜け出したセルジョアを許してくれるはずがありません。
でも、セルジョアにはどうしても逃げ切らなければ行けない理由がありました。ジョンは勢い良くセルジョアの首根っこめがけて走ってきます。セルジョアは積み木の城に逃げ込みますが、ジョンの胴体で簡単に積み木の城は壊されてしまいました。
セルジョアは必死でおもちゃの汽車に飛び乗って、初めての運転をします。
レールはどんどんのびて、部屋をぐるりと一周します。
しかし、ジョンの方が一枚上手でレールの行き着く先に先回りして待っています。

「このままでは捕まってしまう!」

セルジョアは急いで、レールの分岐点のスイッチを押して汽車の行く先を変えます。

危機一髪逃げ切れたかと思いきや
そのレールの先はおもちゃが積まれていて、、。

 がしゃん!

セルジョアは空中に投げ出されました。
ジョンにキャッチされるかと思いきや、もみの木の枝がばねになって、さらに高く放り投げられ、なんと落ちた先は机の上のジェリービーンズの小皿の中!

 「やった、なんてラッキーなんだ!」

 セルジョアは色とりどりのジェリービーンズからピンク色のものを一つ手に取って、抱えました。

 しかし、セルジョアは今度は高い机から降りられなくなってしまいました。床はとても遠く、飛び降りれそうな柔らかいクッションや風船なども見あたりません。その時です、悩んでいるセルジョアの首根っこが加えられました。
そう、ジョンに見つかってしまったのです。

 「ジョン、今日だけは勘弁してくれないか」

 ジョンは何も言いません。

 「今日は特別な日なんだ」

セルジョアは頼むようにジョンに繰り返します。
けれど厳格なジョンはセルジョアと話をしてくれません。
ただ、そっとセルジョアの檻の反対側にある檻の前でセルジョアを降ろしました。

 「今日はクリスマスイブだからね」

 ジョンは優しく言いました。

 「なんとお礼をいっていいか・・・メリークリスマス、ジョン」

 セルジョアがお礼を言う前に、ジョンは小屋へと帰っていきました。セルジョアはどきどきしながら檻の入り口をくぐりました。息を整えて、ゆっくりと家に近づいていきます。家を覗くと、そこにはセルジョアの恋人、セリーヌがいました。

「嬉しい。来てくれたのね、見て」

セリーヌの側には生まれたばかりの赤ん坊が六匹もぐっすりと眠っています。セルジョアは踊るような気持ちです。

 「セリーヌ、ステキなプレゼントをありがとう」

セルジョアは抱えていたピンク色のジェリービーンズをお母さんになったセリーヌにプレゼントしました。

 「ありがとう。あなたとイブを過ごせて幸せよ」

 星空が二匹の幸せな恋人とその家族たちを温かく見守っていました。


  おしまい

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