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「オレンジ色のこいのぼり」 辻下直美創作童話

うんと晴れた四月の日曜日。
南ちゃんと弟の陽平はお父さんの手伝いをして、庭に街一番の大きなこいのぼりをかかげました。
南ちゃんはこのこいのぼりが大好きでした。おじいさんが陽平の5月の節句のために買ってくれたこいのぼりには、黒いお父さんの鯉、赤いお母さんの鯉、子供の水色の鯉のほかにオレンジ色の鯉がいたからです。おじいさんはなにも言いませんでしたが、きっと南ちゃんが子供の日に一人だけ入れてもらえなくて寂しくないように考えて買ってくれたにちがいありません。
友達のどんなこいのぼりを見ても、オレンジ色の鯉はいませんでしたし、大変めずらしいものだということはわかっていましたから。

学校から帰ってくると、いつも南ちゃんは空を悠々と泳ぐこいのぼりを眺めるのが好きでした。
オレンジ色のこいのぼりは風を受けて一番元気に泳いでいて、いつみても飽きません。南ちゃんは、オレンジ色の鯉に乗って、知らない街の上を飛んでいる夢をみました。夕焼けが赤々と広がって、ピンク色の雲の波を乗り越えて、山や町を眺めるそれはそれは素敵な旅です。

風は優しく二人を乗せて、オレンジ色のこいのぼりは南ちゃんに話しかけます。
「海が見たいね!」
そしてぐんぐん風に乗って海を目指します。
でも地平線が見えたあたりで、いつも夢は終わってしまいます。
南ちゃんは山に囲まれた街で暮らしていて、海は写真でしか見たことがありませんでした。

そんなある日、いつものようにこいのぼりを眺めていると、ひときわ強い風が吹いてオレンジ色のこいのぼりを連れ去ってしまったのです。
南ちゃんはあっと驚いて、すぐに自転車に飛び乗って、オレンジ色のこいのぼりを追いかけました。
風は勢いを落とさず、こいのぼりをどんどん南ちゃんから遠ざけます。

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