供花、献花、花のあしらい事情―花の飾り方に正解はない?―
「そういえばタイでお花を供える時、向きはどうやって決めてたっけ?」
G7広島サミットの際、各国の首脳が平和記念公園を訪れ、日本の岸田首相と共に犠牲者慰霊碑に献花する姿が報道されました。7カ国首脳に終わらず、その後も韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領、インドのモディ首相はじめ招待国8カ国の首脳、そのパートナー、さらにはウクライナのゼレンスキー大統領と、献花セレモニーが続きました。
歴史的な出来事でありますが、その感慨はさておき、写真や動画を通して献花の様子を見ていて、気がついたことがあります。
それは、花束をたむける際の向きです。
最初の7カ国首脳が献花した際は、花輪とそれに合わせた専用の献花台が用意されていましたが、問題はたいらな台の上に花束を寝かせて置く形式の時。
他国の首脳らは、岸田首相に倣う形で茎のほうを慰霊碑に向け、花が自分のほうに向くように花束の向きを揃えていましたが、岸田首相以外はそれぞれ、どちらに向ければいいのか一瞬、迷っているようにも見えました。
たしかに献花の方向に明確な決まりがあるわけではありません。
日本では葬儀や告別式で献花をする際、岸田首相がされていたように、花が自分のほうを向くようにすることが多いですが、反対の向きに揃えることもあるとききます。お仏壇やお墓にお花を立ててお供えする際も、正面を供える人のほうに向けて生けることが一般的ですが、元々は仏様のほうへ正面を向けてお供えするのが正式だったという説もあります。
西洋では反対に、遺影や墓標のほうに花を向けるのが一般的なようです。エリザベス女王のための献花台や国葬の様子からもうかがえます。土葬文化のキリスト教圏では、棺の上に花束を手向ける際、故人の顔のほうに花が、足の方に茎が向くように供えられるということが関係しているのかもしれません。
さて、そこでタイの場合です。
タイでも花は神仏にお供えするだけでなく、様々な行事や社会生活のなかで使われます。
日本の生花の文化では、それぞれの自然の中での姿を再現しながら器に飾るものですが、タイでは花びらや蕾を茎から外したり、織り込んだり、糸で繋いだり、元の姿かたちにとらわれずに再構成して飾られることも一般的で、花輪にして飾られることが多いです。バナナの葉を折り曲げて組み合わせ、円形のお飾りを作ることもあります。改めて考えてみるとこういった花飾りは、多くがどこから見ても美しい円形のデザインで、お供えする際の向きに迷うことはありません。
マーライとバーイスィーのいずれも、色彩や形、香りにもこだわって作られる非常に手のかかる作品ですが、最高の美しさが保たれるのはたった一日だけという贅沢な品です。
また、お寺で供えられる花としては蓮の花が定番のひとつです。一説にはこれは、濁った泥水から栄養を得て茎を伸ばし、水面に美しい花を咲かせる様子が、俗世に生まれても最後には悟りを開くという仏教の教えを象徴しているためといわれています。蓮の花は開花するとすぐに散ってしまうため、蕾の状態で売られている事が多いのですが、お供えする際には花びらを織り込んで、開いている姿に近づけるなど、より美しく見えるようにアレンジする方法があります。花びらの折込み方も複数あり、それぞれに名前や意味があります。
タイで花々は儀式や祭典等の特別な場面に欠かせないものであるだけでなく、ホテルでのおもてなしや商店の装飾、料理のあしらいとしても日常的に使われています。飾り方も自由で、花輪にしたり花瓶に生けるというだけでなく、ガーランドのようにうえから吊るしたり、茎をとった花の部分だけを並べたり、花びらをちらしたり、水にうかべたり…。
日本では扱いが難しく高級品のイメージがある胡蝶蘭も南国のタイでは目にする機会が多く、複数の株を吊るして空中栽培にして飾られていたりします。
一年中たくさんの原生種が咲く南国タイでは、日本とは異なる発想で花が嗜まれています。花そのものの美しさだけでなく、そのあしらい方も存分に楽しみたいものです。
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