君はかわいい、たとえ体液が灰色だとしても

 君の首を絞める夢を見る。
 私の握力は平均よりも弱いはずなのに、君は苦しんでいる。ぜぁ、がぽ、ぐゅ、と馬鹿みたいな声を出しながら。それがたまらないほどかわいくて、私は口元の緩みを隠せない。
 真っ白な部屋。低いベッドと冷蔵庫以外、何も無い。その二つですら白い。君の部屋ではない、君の部屋はもっと物が散らばっていた。これが二次創作でよく見かける「出られない部屋」だろうか? 君の首を絞めないと出られない部屋。悪趣味だな、と笑う。君は笑ってしまう私を見ている。
 その琥珀糖のような目が、たまらなくかわいい。
「何その目」
 ぎゅ、と手の力を強める。ごぽ、と君が鳴く。足がつって溺れるときのように、君は生きようと必死な表情で足をばたつかせている。君に馬乗りになっている私は、その振動を全身で受け止める。
 現実の君はけして泣かない。嫌なことがあれば怒るし、悲しいことがあれば落ち込む。けれど、けして涙を見せはしないのだ。君が泣いているところなんて想像できない。だから、首を絞められても君は泣かない。
 白いカーペットに君の涎が染みる。「灰色なんだね、君の体液は」と呟けば、君は眉尻を少し下げた。私は右手を君の首から離し、肩の皮をつまむように撫でる。少し前に観た映画で、主人公たちがそうやって慰め合っていたのを思い出したのだ。
「大丈夫」
 代わりに、左手に力を込める。君の直線が波打つ。
「灰色でもかわいいよ」
 夢だからか、君の全体像を把握できない。君の腕がどこにあるのかが分からない。嫌がっているのか、されるがままになっているのか。どっちだろう、と考えながら、私は目を細めてみる。薄い視界で君を見つめる。そうすれば、私の世界が君で満ちるからだ。
 ふと、バイト先の先輩を思い出した。笑うとき必ず目が細くなる先輩が前頭葉に入ってきて、私に言う。「痛いじゃん、やめてあげなよ」と。
 うるさいなあ、先輩に何が分かるんですか。君のことを何も知らないくせにね。先輩は自分が正しいとでもいうような表情で、私を見下ろす。
 私は首を絞める力を強める。そうしているうちに、先輩はどこかへ消えて行った。
 喘ぎながら、君はだんだん白くなっていく。かわいい。もっと見たい、その一心で私は君に覆いかぶさるように前のめりになる。さっきよりも力を入れやすいような気がして、私は調子に乗ってしまう。
 「かわいい」かわいい、「かわいい」かわいい、ずっとこうしてみたかった。君の粘膜が温い。
 君に馬乗りになってみたかった。君にかわいいと言ってみたかった。ずっと、こうしたかった。きみの頭を私でいっぱいにしてみたかった。きみに首を絞められてみたかった。

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