#103 現役学生に知ってほしいよねー
学力の土台
学力の差はどこにあるのだろうか?
生まれ持った資質(才能・遺伝)だろうか、生育環境によるものだろうか、はたまた両親の経済力によるものか、これらの一部もしくはすべてなのかもしれない。
しかし、自分が根本的に他の人たちと同じ土俵に立っていないとしたら、君はどう感じるだろうか。
例えばこういうことだ。
リンゴの木に真っ赤な果実が実っている。木の持ち主は、人の手を借りずにもぎ取ることができれば、好きなだけ食べて良いという。なぜなら、木の持ち主は努力した者は相応の対価を得られるべきだと感じているからだ。
そこで周りにいる人たちは、あの手この手で果実をとろうとする。
しかし、果実は背を伸ばし指先まで限界に延ばしても届かない場所にある。木を登ろうにも幹は太く、腕を回すこともできない。足元に短い棒が落ちているが、それだけでは到底リンゴには届かないように思える。
それでは誰もとることはできないように思えるが、一部の人たちは難なくリンゴを手にしている。詳しくはわからないが、どうやら梯子のようなものを登っている。
木の幹の周りを調べてもそれは見つからない。登った人に聞いてもよく分からないという。
ただ、リンゴを手にした人たちは口々に、なぜ自分は簡単に登れるのに他の人は簡単に登れないんだと疑問に感じている。
木の主は、リンゴを手にしたものは努力をしていて、リンゴを手にできないものを努力が足りないと認識している。
誰かには見えて、誰かには見えない梯子がどうやらあるようだ。
問い
さて、君の答えは①~③のうちどれだろうか。
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まず正解は①になる。
世界の難民・国内避難民らの数は6530万人で、難民は2130万人と書かれているので、国内避難民の多いことがわかる。暗算が苦手な人は計算を間違えて答えを②と選ぶかもしれない。
しかし、それ以前に上記の文から意味を理解できていなければ、計算にすらならないはずだ。
そして、普段聞きなれない言い回しである「このうち、国境を越えた難民は2130万人で」に、「えっ、何のこと?」と感じたのなら尚のこと理解するのは難しい。
この文には二通りの読み方がある。
一つは「国境を越えた難民と国内に留まった難民がいる。国境を越えた難民は2130万人である」という読み方。
もう一つは「国内に留まったら国内避難民、国境を越えたら難民と呼ばれる。難民の数は2130万人である」という読み方。
第一文冒頭に「世界の難民・国内避難民」と書いてあるので、国内に留まったら国内避難民になるという読みが正しいことがわかる。
この問題は基本的に書いてあることを確認しているだけの問題です。現にこの文章は小中学生向けにニュースを解説する「月刊Newsがわかる」(毎日新聞出版、2017年7月号)のものです。
毎日新聞としては世界ではこんなことが起きているよと報じているものです。
しかし、読み手であるわたしたちが、それを正確に読解できていない場合も存在することを問いは示唆しています。
RST(リーディングスキルテスト)
これはリーディングスキルテストと呼ばれるもので、「事実について書かれた短文を正確に読むスキル」を6分野でテストしています。
上記の問いは6分野の「推論」という分野のもので、小学校6年生までに学校で習う基礎知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力を測るものです。
リーディングスキルテスト(RST)は短文を正確に読むスキルを測るので、学習が必要な知識は必要ありません。そのため、記憶を必要とするものや方程式が必要な問題があるわけではないので、一般的な偏差値とは異なります。
しかし、RSTを運営する教育のための科学研究所所長、新井紀子氏の仮説によれば、「高校のRST能力値の平均とその高校の偏差値には極めて高い相関がある」といいます。
この仮説が正しいという前提の話になりますが、RSTの成績が良くなればおのずと学力も上がる可能性が高いということです。
では、RSTの問題集をどこからか入手して学習ドリルのように勉強すれば学力が上がるんじゃない?!と思う人もいるかもしれませんが、そうではないようです。
RSTは読解力の視力検査のようなもので、視力検査を繰り返し行ったからといって視力が改善しないように、RSTを繰り返し行っても効果は低いようです。
おそらく人間は適応力が高いので、パターン記憶のように、AがきたらBが答えというような傾向がみえると、類似するパターンの問いに反射的に傾向に合わせた解答をするよう、学習するようになってしまうのでしょう。
そのことにより、きちんと文章を読まずに解答をして、かえって誤読が増える可能性があります。
では、根本的にRSをよくするにはどうすればよいのでしょうか。
実はまだ明確は方法は提示されていません。
それもそのはず、RSTはAIが人間の言語を正確に理解するために作られた研究だからです。
AIにとって難しい自然言語処理を向上させるために大量のデータが必要で、さらに文章のどこを理解し理解できないかを明確にするために、分野を6つに分け、より細かなデータを取ろうと試みたようです。
そこで、思わぬ誤算だったのが、そのテストをした中高生のみならず大人にとっても難しいことが判明したのです。
「短文を正しく読むことができない中高生がいる」
当時、新井所長はまさかとデータを疑ったそうです。
これでは問題を解く以前の問題です。
問題文を正しく読めなければ計算ができたとしても正解できるはずもないのです。
以前、とある文化人が英語を習う前に日本語をわかるようにならなければ意味がないとおっしゃっていました。
もしかしたらそれは、日本語の語彙力や知識を指すのではなく、日本語で書かれた文章を読んで理解できることを述べていたのかもしれません。
つづく
参考文献「AIに負けない子どもを育てる 新井紀子著」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ケイさん画像を使用させていただきました。
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