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#104 誤読解の考察

こちらは「#103 現役学生に知って欲しいよねー」のつづきです。


誤読解の考察


ではどのように誤読解(ご・どっかい)が発生するだろうか。

私説「誤読解の理由」

①熟語の意味を理解できていない。
②定義を曖昧に理解している。
③理解できていない言葉が抜け落ちる。
④文節の数によって、読解できる脳処理のキャパを超える。

読解:文章を読んで、その内容を理解すること。

以上の4つが考えられる。


①熟語の意味を理解できていない。


①については単に、文章中の言葉を知らないために、文章全体を正確に判断できなくなるというもの。

「頭上を見上げると、青空が広がっている」

「頭上を見上げると、蒼穹が広がっている」

どちらも同じ意味ですが空を表現するための漢字が違います。青空はよく聞く言葉ですが、蒼穹はあまり聞くことがないように、普段使わない漢字の意味を知るのは難しいことです。

現代風でいえば、笑→w→草のように、同じ意味であっても漢字や表現(記号)が異なることで理解できない場合があります。

しかし、こちらの誤読については知識の問題なので学習すれば改善できるはずです。


②定義を曖昧に理解している。


つぎに②ですが、定義とは「○○は、◇◇である」というものです。

この定義を曖昧に理解していると誤読解につながります。

例えば、長方形の定義は「4つの角がすべて等しい四角形」です。

では、正方形は長方形でしょうか?

ちなみに、正方形の定義は「四つの辺の長さが等しく、内角が全部直角の図形」です。

内角が全部直角ということは、4つの角がすべて等しい四角形という定義を満たしています。

ですので、正方形も長方形の仲間になります。

今回は、わかり易いかもしれませんが、このように定義の一部を満たすもの、定義すべてを満たすもの、定義を満たさないものと、3種類あることが解ります。

まったく定義を満たしていないものは問題ありませんが、定義の一部を満たすが、すべては満たしていないものを識別するには、正しい定義の認識が必要になります。


③理解できていない言葉が抜け落ちる。


③は、どういうことかといえば、文章を読んでいる時に、普段読み慣れていない言葉や言い回しがある場合に、無意識にストレスがかかり、視界に入っているはずなのに認識することができなくなるというものです。

注意深く何度も読み返せばそのようなことはなくなりますが、本人は無意識に言葉や言い回しを読み飛ばしているので気がつかない可能性があります。

よく、幼少の子どもが本を読むときにルビがふってある漢字を読み飛ばすことがあると思います。

これに似ていて、文章を読んでいる最中に、読み慣れた言葉はすぅーと頭に入るが、読み慣れない言葉は信号が遮断され、頭の中に入らなくなる。

または、意識下に留まることができずに、文章を読み上げた後すぐに(読み上げている最中に)消えてしまう。

例えば、「子曰く、疏食を飯い水を飲み、肘を曲げてこれを枕とす。楽しみ亦た其の中に在り。不義にして富み且つ貴きは、我に於て浮雲の如し」

これは、論語の一節ですが、これを読んで文章を見返さずに、20秒後正しく復唱できる人がどれだけいるでしょうか。

読み慣れない言葉や聞きなれない言葉は、その言葉が脳内に定着するまでには一定の時間が必要になります。

そのため、初めて出会う言葉は繰り返し使用しないと記憶として定着せずに消えてしまいます。

④文節の数によって、読解できる脳処理のキャパを超える。


④は計算式として考えるとわかり易いのですが、例えば(8×7)は56とすぐに計算して答えが出ますが、(8×7)+(6×4)+(13×7)を暗算するのは難しいと思います。

なぜかといえば、(8×7)をして次の(6×4)を頭の中で計算している時に、(8×7)の答え56を頭の中に留めたまま、(6×4)を計算し、その答え24を、頭の中に留めておいた56に24を加算し、その答え80を脳内で更新し、次の(13×7)を計算しなくてはならないためです。

ワーキングメモリといわれますが、脳内に必要な記憶を一時的に留めておく容量になります。この容量をグラスの大きさと考えてみましょう。

ワーキングメモリ:認知心理学において、情報を一時的に保ちながら操作するための構造や過程を指す構成概念である。作業記憶または作動記憶ともいわれる。

Wikipedia

Aさんは2L入るとします。だが、Bさんは1Lしか入りません。例えば、1.5Lの記憶を一時的に留めておかなくてならない時に、Aさんは2Lの容量がありますから、まだ500mlの余裕があります。

しかし、Bさんは1.5Lですから、500ml分の記憶がグラスから溢れてしまい、すべてを記憶することはできません。

これと同じことが文章を読んでいるときにも起こっています。

例えば「太郎は、3人兄弟の長男である」はそのまま読めますね。

では「太郎は長男ではあるが、異母兄弟の兄と姉がいて、血縁のある兄弟を含めると三男になる」

このような場合に、太郎→長男から、長男→異母兄弟の兄・姉→異母兄弟の兄姉が長男または長女→異母兄弟の兄姉が次男または次女→太郎→三男になる。

ややこしくなりますよね。

文章を読んでいる最中に頭の中でワーキングメモリを使って、これらの違いを順番に整理していくわけですが、この整理するための情報量が多くなると脳内に留めておくのが難しいことがわかると思います。

もっとも、記憶力のある人は、そのようなことがなぜ大変なのかは分かりません。なぜなら、歩いている人に「どうやって歩いているのですか」と聞くのに等しく、できることが普通のことだからです。

よく人に「こんなの常識だよね」とマウントをとる人がいますが、あれも自分にとって容易にできることやわかることを、相手の立場を理解できずに発言しているのにすぎません。

短文であったとしても、そこに内包されている情報量が多い場合、長文と同じように理解するには同等のエネルギーが必要になります。

そのため、わかったつもりになりやすく、誤読解が起こります。

誤読解を防止するために


先に述べた①-④を踏まえた上で、誤読解を防止するために考えられる方法は、熟語の意味を理解するための一般学習を行うことはもちろんのこと、定義を再認識し、曖昧なままにしておかないこと。また、短文といえど2-3回再読し、文章を理解するよう努めることです。

そして、一番重要なのは、自身のワーキングメモリのキャパを認識し、それに見合った読解方法を探すことです。

この読解方法の一つとして、アウトプットが有効です。

アウトプットは、出力という意味です。ちなみに、インプットは入力になりますが、読んだ文章を適度に分けて整理したものをアウトプットして記述します。

自分のワーキングメモリによってその分割数が違うと思いますが、そのようにして、文章を咀嚼します。こうすることで、頭で処理する情報量が少なくなり誤読解を防止できます。

よくメモをとりなさいと言われることがあると思いますが、人間はそれほど完ぺきではありません。メモをとることは、記憶した情報の変質を防ぎ、情報を固定化してくれます。

書いたメモの内容が変化したってことありませんよね。

そして、脳内に入れた情報を再度、目を通すことによって記憶がさらに定着しやすくなることを助けるのです。

フィードバック効果とよばれますが、アウトプットしたものの15%くらいは自然と無意識にインプットされるといいます。

漢字練習で繰り返し同じ漢字を書くのは、このフィードバック効果によって書いた漢字の記憶をより強くするための方法の一つなのかもしれません。

このように上手にアウトプットを利用することで、ワーキングメモリの容量に左右されず、誤読解を防止するのはどうだろうか。

このような苦悩を、地頭の良い人たちはわからないと思うと、社会は不公平にできていると思えてならない。

人はできることしかできない。当たり前のことだが、それを受け入れている人は意外と少ない。

それでも、自分らしく生きていく自由は与えられている。

幸あれ。

おわり


参考文献「AIに負けない子どもを育てる 新井紀子著」


最後まで読んでいただきありがとうございます。

いらすとやさん画像を使用させていただきました。

毎週金曜日に1話ずつ記事を書き続けていきますので、よろしくお願いします。
no.104.2022.2.4

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