年収700万。営業マンの販売手法①
年収700万。私がいた営業会社では高い水準の給料だった。20代前半だったし。熊本という土地柄もあり、同世代の友人間でも収入は相当に優位だったと思う。
仕事は商売用販促ツールの飛び込み営業
こんにちはー。と店に入って初対面の店主と2時間前後話して60万円の機器の契約書を取って帰るお仕事。ちゃんと印鑑まで取って帰るし、詐欺を働くわけじゃない。ウソのようなホントの話だ。
60万円の商品を売ると10%が給料に反映される。なので、50万の給料を取るには月8台売ればいい。実働24日くらいだったから3日に1台くらい売れば給料50万で年収が600万円になる。営業マンが外交員扱いだからボーナスはなかった。ただ、会社の掲げた目標を達成すると5万とか10万とかの賞金が付いていた。ギルドさながらガチガチの営業会社だ。
もちろん事務所の後ろ壁には、「必達2500万円!」という感じで営業マン全員の売上グラフが貼りだされている。
相手は商売人なので楽ではない
60万の商品を3日に1台飛込みで初対面の相手に売る。ボケた老人に布団を売るのとはわけが違う。相手は商売人であり経営者だ。毎日売上を計算して電卓をはじくラーメン屋の親父だったり、店を出したばかりで目に活力がみなぎるパン屋さんだったり。そんな相手に利益説明をしたり世間話をしたり、なだめすかしながらジリジリと契約までのコマを進めるようなあの営業の仕事に私は少なからずやりがいを感じていた。
一番売れる商品はLED表示機だった。店を構えて客商売している経営者は常に何かしらの危機感を抱いている。毎月が勝負。店舗経営に安泰はないのだ。そこをついた販促の勇、LED看板が心を揺さぶりやすかった。
脳筋先輩の原始的営業方法
会社には営業マニュアルがあった。それを忠実に守ると、どんなに頭の弱い営業マンでも200万は売れる、というのが営業部長の口癖で、実際月収20万そこそこは誰でも取れるのだ(ちゃんとできれば)。営業マンは毎朝、マネージャーに自らロールプレイングをお願いし、鬼のような店主役の断り文句の中、それをかいくぐって売り出し商品の現物を持ち込むまでを何度もシミュレーションする。これで準備はOK。
マニュアル内容の詳細は諸事情により割愛するが、とにかく断る店主の言葉を交わし、最後は少々強引にでも実機」機をお店に持ち込んでみてもらうというスタイル。当然キレるお客さんもいる。しかし、意外と実機を持ち込んで見せると、はじめは嫌々な顔をしている店主の顔が徐々に興味に変わることがあるのだ。大体7~8件ほど見せると1件はこれで決まる。
私もこの会社に入って最初にこの話を聞いた時、んなアホな。そんな持ち込み方されたら自分だったらキレるし絶対買わんがな。と思ったのだが、本当にこれで売れた。何なら、最後はお客さんと笑顔で契約書を交わすのだ。念のためにもう一度言っておくが、老人相手ではない。百戦錬磨の店舗経営者達相手にだ。この会社はこの売り方で20年やってきたのだ。
マニュアルに従わず黄金のアプローチ法を探した
入社後1ヵ月はマニュアルに従った。350万売れた。新人では珍しい売り上げ達成だった。同時入社が5人いたが、目標達成したのは私ともう一名、立山だけだった。ただ、ものすごくメンタルが消耗した。そりゃそうだ、確率で言えば笑顔で交渉に入るよりも怒鳴られる方が断然多い。売上の高さは怒鳴られる回数の多さに直結していた。
私たちよりも売上の低い新入りメンバーは、怒鳴られる回数が少なかった分メンタルの消耗は少なそうだったが、比例して給料も少ない。何だこの地獄車は。一体誰が得するんだ。メンタルと金を等価交換してるだけじゃないか。
「こんな仕事の仕方でずっと働きたくない」
表彰されチヤホヤされている最中も、私は何とか生き抜く方法を考えていた。同期5人のうち売上の少なかった3人はその日で辞めていった。私と一緒に達成した立山は浮かない顔をしていたものの、辞めるとは言いださなかった。
2ヵ月目、初日。朝の恒例ロールプレイング中に私はあることに気が付いた。
「そう言えば、ここには脳筋しかいないじゃないか」
あっちを見ても脳筋、こっちを見ても脳筋。
なんだよ。マニュアルに書いてあるように強引な持込しかできない営業マンしかいないじゃないか。これは、ひょっとしたらひょっとするぞ。
元来あまのじゃくで、人と違ったことばかりするひねくれものの血がここに来て力を発揮することになるとは思わなかった。