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シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

盛大にネタバレを含みます。ご注意ください。

紆余曲折を経て2021年3月8日に公開された「シン・エヴァンゲリオン劇場版:||」を観てきました。

およそ9年ぶりの最新作にして25年に渡るエヴァンゲリオンシリーズの完結編。

庵野監督が命を削って作り上げた最後のエヴァンゲリオン。

映画公開から一定期間が経過し、公式からネタバレ解禁のアナウンスもあったので、自分なりに感じたことを物語を振り返りながら書いていきたいと思います。

旧劇「Air/まごころを、君に」の感想についても書いているので、読んでいただけると幸いです。

冒頭12分10秒10コマに続いて、赤い大地を旅する場面から物語が始まる。

先頭に立ち集団を牽引するアスカ。何も言わず従順について行くレイ。精魂尽き果て立っているのがやっとのシンジ。

3人が並び立って歩く姿。それぞれの立場は大きく変わってしまったけれど、幸せなあの頃を思い出させてくれるとても懐かしい光景。

このまま放浪するシーンが続くのかと思いきや、彼らの元へ車に乗った相田ケンスケがやって来る。

前半の物語の舞台となる第三村。

医師になり生き残った人々の命を守るトウジ。ヴィレとの橋渡し役を担うケンスケ。トウジと結婚し母親になった委員長。

ニアサードインパクト後の壮絶な時代の中で、困難を乗り越えて生きてきた彼らは14年の年月を経て、28歳の成熟した大人になっていた。

アスカとケンスケの深い関係。

レイやシンジとは違い、空白の14年を小さな身体で生き抜いてきたアスカ。人間ですらなくなってしまった悲しみと孤独を背負いながら、エヴァに載り戦い続けてきたアスカ。

そんな彼女が成長する手助けをし、心の支えとなり、帰る場所になったのがケンスケだったのかなと思います。友人として父親として、パートナーとして、長い時間をかけてアスカの大切な存在になったケンスケ。

レイが委員長や村の人々と共に過ごす中で人間らしくなり、傷心のシンジがレイの愛情に触れて少しずつ立ち直ったように、誰かに支えられることで人間は生きていける。

なんでみんなこんなに優しいんだよと漏らした、シンジの心の叫びに胸が詰まりました。

そんな人の温かさに触れられる、少し意外とも言える第三村の場面。エヴァンゲリオンの存在しない穏やかな世界。

笑顔を見せるようになったレイ。元気を取り戻したシンジ。そんな彼を陰から見守るアスカ。

この美しい世界は壊されるために用意された見せ物に過ぎないのか。そんな嫌な予感がしました。今までがそうであったように。

案の定と言うべきか、レイはシンジに気持ちを伝えた直後LCLに還元されて消滅する。またしても彼女はシンジの目の前からいなくなってしまう。ゲンドウが意図的にもたらしたシンジへの喪失。

レイの死によって否応なくエヴァの世界へと引き戻されるシンジ。アスカと共にヴンダーに戻ってヴィレに帰還し、父親と戦う覚悟を決める。

セカンドインパクトの爆心地を舞台に、繰り広げられるネルフとヴィレの最終決戦。

アナザーインパクト。式波シリーズ。エヴァンゲリオン・イマジナリー。エヴァ・オップファータイプ。マイナス宇宙。ガイウスの槍。

ヤマト作戦以降物語は核心に迫り、聞いたこともないワードや衝撃の真実が次々と明らかになる。まるでこれまでの疑念や憶測を全て吹き飛ばし、それら一つ一つを丁寧に回収していくかのように。

ですがあまりに情報量が多すぎて、さすがに初見の時は戸惑いました。完全に理解が追い付かなくなる。アスカがクローン…?

新劇場版「破」でヴァチカン条約により弍号機が収納された際、赤木リツコ博士がパイロットも含めてバックアップがいると発言していたのは、文字通りそういう意味だったのだろうか。レイと同様にネルフに用意された、道具としての人間。

彼女が自らの「オリジナル」と呼んだアスカはあの惣流アスカラングレーなのか。世界線が違うはずの旧劇と新劇場版。交わるはずのない惣流と式波。ループをしているのか、それともパラレルワールドが存在しているのか。彼女がシンジに寄せていた好意も、全て仕組まれたものだったのか。

彼女が人間ではなく、使徒であったとしても、それでもやっぱり僕はアスカが好きです。心に深い傷を負いながら、人類を守るために身を呈して戦い続けてきたアスカ。そしていつも誰よりも酷い目に遭うアスカ。そんな彼女がこれ以上傷つく姿はもう見たくない。

人であることを捨て最後の勝負に挑んだアスカを圧倒し、覚醒を遂げる13号機。使徒化したアスカをトリガーに発動されるアディショナルインパクト。ネルフの策略に踊らされ無力化されるヴィレ。満を辞して姿を現すゲンドウ。

ゲンドウから明かされる人類補完計画。葛城博士の構想した事実。セカンドインパクト以降意図的に起こされていた大規模虐殺。全ては碇ユイのいる世界を実現するため。

自分一人の願いのために世界を犠牲にしようとするゲンドウ。もう少し別の動機や目的があるのかと思っていたけれど、旧劇と変わらずゲンドウの心の中にいるのはユイさんただ一人だった。

テレビ版で碇ユイが初号機に取り込まれ世界からいなくなった後、しばらく姿を消していたゲンドウ。僕はどうせ何か悪いことでも考えているのだろうとばかり思っていた。人の心を持たない残虐かつ冷徹な男。

まるで違った。彼は自分の存在を認め、受け入れてくれる唯一無二の理解者を失った深い悲しみをずっと背負って生きていた。ゲンドウがユイの復活を目論むのには何かもっともらしい理由があるのかと思っていたけれど、彼は本当にただもう一度愛する女性に会いたかっただけだった。人外に成り果ててまでユイとの再会を望んだゲンドウ。

シンジを拒絶し遠ざけていた本当の理由。動きがリンクする初号機と13号機。対になった2体のエヴァンゲリオン。渚カヲルの正体。父親としての愛が具現化した最後のシ者。

全ての謎が解き明かされていき、雲が晴れるように心がスッキリしていく。まさかここまで丁寧に説明してくれると思っていなかった。嬉しい反面、本当にエヴァンゲリオンが終わってしまうことを悟り、終盤以降は観ていて寂しい気持ちの方が強かった。

銃弾から身を呈してシンジを庇い負傷したミサト。シンジとリョウジ、二人の愛する少年が映った写真をじっと見つめていたミサト。自らの命を犠牲に人類を救う道を選んだミサト。あの頃と何も変わらない、強くて優しいミサトさん。

シンジに殺されることを受け入れ、精神世界から姿を消すゲンドウ。電車に残ったシンジが一人一人の魂と向き合い、全てを終わらせる最後の作業に取り掛かる。

アスカ、レイ、カヲルとの永遠の別れ。  

最後の最後に、互いの気持ちを伝え合ったアスカとシンジ。

宇部新川駅でマリと手を繋ぎ現実世界へと帰って行くシンジ。25年に渡る物語の終劇。

以下個人的な感想。

終わった。終わってしまった。観終えた直後は虚しさと喪失感で胸がいっぱいになった。帰りの電車でずっと宇多田ヒカルを聴いていた。

大袈裟でもなんでもなく、エヴァンゲリオンは僕にとって心の支えだった。特にこの一年間、あらゆる活動の自粛を余儀なくされ仕事がなくなり収入が激減し、絶望感に苛まれ生きることを半分くらい諦めていた頃、エヴァは唯一の心の拠り所だった。

緒方恵美さんは庵野さんの作るものでなければエヴァンゲリオンではないと言い、その庵野監督は僕のエヴァはこれで終わりと言った。

チルドレン達がそれぞれ成長し大人になったように、観ている人間もエヴァンゲリオンから卒業しなければならない。大人にならなければいけない。

大人になりきれていない僕の心に、シンエヴァは深く突き刺さった。 

でもテレビ版や旧劇と違って、希望のある終わり方で締めくくってくれたので本当に良かったと思う。また首を絞めて気持ち悪いなんて言われたらたまったものではなかった。

SF作品「未来からのホットライン」から引用された副題の「Thrice Upon A Time」。

物理学者を題材に描かれるタイムスリップの物語。エヴァは繰り返しの物語だと言った庵野監督。ループしているとしか思えないカヲルのメタ発言。

ラストシーンの真意、色々な憶測や考察がたくさんあるので、どれが正しいかは分からないけど、僕はシンジが作り出した、エヴァンゲリオンの存在しない新しい世界なのではないかと思います。

「Once」ではなく「Thrice」。一度ではなく三度。一度目は旧劇。二度目は新劇場版。そして最後の三度目がシン。何度も作り直されてきたエヴァンゲリオンの世界。

いくつも存在する世界を何度もループしながら描かれていた物語。現実と虚構が交差し、次元や時空を超越した繰り返しの物語。

アニメーションから実写の世界、僕らの生きる現実世界に飛び出したチルドレン達。庵野監督の故郷に帰ったシンジ。物語の帰結。補完をしない形で手に入れたそれぞれの幸せ。

みんなが納得するかたちで終わったエヴァンゲリオン。これ以上なく美しい、理想的な終わり方。これで良かったと思える終わり方。

もう感謝の気持ちでいっぱいです。こんな素晴らしい映画を、映像の世界を、長きに渡って楽しませつづけてくれたエヴァンゲリオン。

これから先もずっと僕はエヴァを観続けると思うけれど、自分の中でひとまずエヴァへの想いは落ち着いたかなと思います。

なんてことを言いながら明日3回目を観に行く予定です。入場者特典が変わったそうなので、これはもう行くしかないです(笑)

恥ずかしい表現ですが、僕にとってエヴァは青春そのものでした。11歳から24歳まで大好きだった物語。

ありがとう、全てのエヴァンゲリオン。

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