【日記体小説】夢中散歩:9月28日
また、懐かしい夢を見た。でも、一昨日見た夢ほど、昔の記憶ではない。ほんの2年前。だけどもう、ずっと昔のことのように感じる。
それにしても、なんて単純な思考回路をしているのだろう。今朝がた、ピアスのことを意識したからって。
「痛かったよな。頑張ったな。」
2年前、人生初のピアスを開けてもらった日の夢を見た。
周りのピアスを開けている友人たちは、こぞって痛くないとのたまっていたけれど、嘘つきばっかりだ。痛くないわけあるもんか。驚くほど痛かった。でも夢の中のわたしは、「痛くないよ。」と返した。わたしも嘘つきだ。だって、夢だというのに、こんな記憶を掘り返しただけで、疼くような痛みを覚えたクセに。
この右耳にピアスを開けたのは、最愛の人だった。出会った頃、彼のほうは既に2、3穴が開いていて、途中で増えたりなんかもした。
昔から、ピアスに対する妙な憧れがあった。彼の黒髪から覗くピアスたちも、やけに輝いて見えた。だけど、痛いことが苦手なわたしは、自分が開けることなんて、とても考えられなかった。けど、不意に彼のピアスに触れながら、「わたしも開けようかな。」つぶやいてみたら、「開けてあげようか?」と言われた。すぐに、頷いた。酒の勢いと呼ぶには、あまりにも周到に思えた。
さて、無事にファーストピアスが貫通したわけだが。今後のケアの仕方なんかについて、丁寧に彼に教えられながら、ホールが安定したらどんなピアスを着けようか、考えていたのも覚えている。でもまずは、継続的な痛みと付き合っていく時だ。
それからまた酒を煽りながら、最近仕事がどうだとか、趣味の活動がどうだとか、色んなことを話した。わたしは酒に強くないはずなのに、夢の中ではその設定も改ざんされてるらしかった。
いつまで、この夢の中にいるのだろう。
いつまで、この思い出に囚われているのだろう。
「わたし、好きな人ができたの。」
それは当時のわたしの言葉ではなく、"今"のわたしの言葉だった。彼は、驚いた顔をしていた。でもすぐに、笑って言った。「良かった。」、と。安心しきった顔だった。
ずっとずっと、過去に囚われていた。当然わたしの目の前から姿を消してしまった彼の影を、ずっとどこかに見ていた。それは時に、その場から動けなくなってしまうような、そんなどうしようもない悲しみを引き連れて。彼しか、いないと思っていた。もうこれ以上の恋なんてできないと、本気で思っていた。現に、2年もの間、彼との楽しかった日々の思い出が、わたしを酷く苦しめていた。
「わたしは、もう大丈夫だよ。」
それは決して、強がりなんかじゃなかった。たとえ強がりでさえ、2年間言えなかった言葉なのだから。言った瞬間、夢から覚めた。
右の耳たぶを触って、ピアスを確認する。昨日の朝とは、まるで心境が違った。わたしはそのまま、ピアスを外した。それが、彼との決別の合図のように思えた。だけど別に、捨ててしまうつもりも、忘れてしまうつもりもない。ましてや、この穴を塞いでやるつもりもなかった。それは昨日とは打って変わって、未練と呼ぶには、あまりにも美しく思えた。
ただ、思い出は思い出として、この胸に大事にしまっておけば良い。それを再び掘り返したとて、過去に囚われて動けなくなってしまうことは、もう二度とないだろう。
さて、新しいピアスを買おうか。
※これは、”私”が見た夢の記録…という形式の創作小説です。また、夢十夜のオマージュ的な物。
※昨日の夢中散歩に「スキ」してくれた皆様、ありがとうございました。良ければ他の日の分も読んでやってくださいませ。
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