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【日記体小説】夢中散歩:9月26日

今朝は本当に焦った。遅刻しそう、という意識だけはあるのに、どう頑張っても現時刻がわからなくて、とにかく必死に身支度をしていた。遅刻しそうな夢も、時間がわからない夢も、何度見ても慣れない。

時間がわからない、というのは、どういうことかというと。部屋のどこにも時計が見当たらないのだ。
でも今は、スマートフォンで時間がわかる時代。その頼みの綱であるスマートフォンも、まったくの役立たず。何度電源ボタンを押しても、画面は真っ暗のままで、時刻を表示してくれないのだ。
そんな夢を、もう何年も前から嫌になるくらい見ているのに、いつまで経っても、「これは夢だ。」ということを、学習できずにいる。

それよりも、「これは夢だ。」ということを、決定づけることがあるのだが。遅刻しそうになっている理由というのが、90%以上の確率で、体操服が見つからないというものなのだ。
わたしはとうに学生なんかじゃないし、社会人何年目か数えるのも嫌になるくらいには、学生生活を終えてから長い年月が経っている。
なのに、未だに「体操服が見つからずに、遅刻しそうになる」夢を、何度も見るのだ。
体操服なんかに思い入れがあるわけではないし、体育の授業が特別好きだったわけでもない。むしろ、体育は苦手で、嫌いだった。だからこそ、夢にまで見て苦しむのだろうか。

あるときは、実家で。あるときは、社会人になってひとりで住み始めた、この家で。またあるときは、田舎の祖母の家で。わたしはタンスの引き出しを上から下まで全部あけて、必死に体操服を探している。
昨日は、実家だった。当時使っていた、淡い水色のタンスの中や、押し入れの衣装ケースの中、しまいには母親のクローゼットまで開けたけど、体操服は見つからなかった。あと、洗濯機の中も覗いたはず。
それだけ探してなければ、ないですね。私の中の百均店員が言った。

思えば、おかしなところは他にもたくさんで。他のクラスの友達に体操服を借りようと思ってメールをするのだけど、その友達というのは、小学生の頃の友達で。わたしが探しているのは、高校の体操服だよ。ちなみにこのとき、メールを打つためにスマートフォンを使うことはできたけど、頑なに時間は教えてくれなかった。

今日の体育は見学するしかないかと、そこまでして、やっと諦めた。家を出るときにわたしが着ていた制服は、2年前まで勤めていたアルバイト先の制服だった。
さらに外に一歩踏み出せば、そこはどう見ても祖母の家の近所。わたしは実家の玄関を出たはずなのだが。

あまりにもおかしなことが多すぎる。夢なんてそんなもんだけど、ここまで詰め放題しなくてもいいじゃないか。わたしは、バス停へ向かって歩いた。その途中で、やっと「これは夢だ。」と気付いた。そのキッカケはあまりにも馬鹿らしくて、笑い飛ばしたくなるほどだ。

「これ、1個前に使ってた機種じゃん。」

わたしが夢の中で使っていたスマートフォンは、1つ古い機種だった。そんなことで現実との矛盾に気が付くなんて、本当に我ながら最高だ。もっとわかりやすい矛盾点は、いくらでもあったのに。

前の機種に、なにか今頃になって思い出したいモノでもあっただろうか。わたしは以前使っていたスマートフォンを収納棚から取り出し、充電器をさした。充電を待っている間に、洗濯物を終わらせよう。








※これは、”私”が見た夢の記録…という形式の創作小説です。また、夢十夜のオマージュ的な物。

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