大学生や高校生に今カタンをやってほしい理由

僕はボードゲームが好きでよく後輩をうちに呼んで対戦の場を組む。下宿が大学からかなり近い位置にあるので、友達を呼びやすいというのもあるけれど、単純に僕はボドゲが好きだし、それ以上に複数人の人間で一人の勝者を決めるタイプのボドゲはゲーム以上のことが学べて、奥深いからだ。

カタンの開拓者たち、という有名なボードゲームがある。(以下カタン)

このゲームは簡単に言うと資源を集めて陣地を広げ、人より多く一定のポイントに達した人が勝者となるゲームだ。

資材は五種類存在し、それぞれが取れやすい場所がゲーム毎ランダムに決まる。どこに拠点を置くかというのが重要になってくる。

ゲームの進行としてはシンプルで、まず手番のプレイヤーは2つのサイコロをふり、出目の合計数のチップが置かれた土地の周囲に拠点を持つ人が、その土地に書かれた資材を得ることができると言うわけだ。

2つのサイコロを振ると言うことは数2〜12の間に収まり、当然12より10の方が出る確率が高く、これが土地の豊穣さを示していると言ってよい。中でも最も出やすい8や6の書かれたチップは、文字が赤字で書かれており、それが置かれた土地は狙い目というわけだ。

しかし、7の数字の書かれたチップだけは存在しない。では7(16、25、34の組み合わせ)が出たらどうなるかと言うと、資材は入らない。代わりに手番のプレイヤーが『盗賊』という特殊なコマを自由に動かすことができ、動かしたマスに接する位置に拠点を置く任意のプレイヤーから、カードを一枚奪取することができる。さらに、盗賊が停まった土地は資源の算出がストップする。内紛状態になり、土地が死んでいると考えれば当然である。

そんな『盗賊』を動かすことができる特殊なカードが存在する。それが特定の資材を3つ消費することで弾ける『発展カード』の中に多数含まれる、『騎士カード』である。騎士カードを用いればサイコロで7を出さずとも、手番に盗賊のコマを自由自在に動かすことができるというわけだ。



『騎士カード』は軍事力のことだと、僕は解釈している。このカードを最も多く表にして使ったプレイヤーには、最大騎士力という2ポイントに相当するカードが与えられる。つまるところ、軍事大国として認められるということだ。

この騎士カードは非常に重要だ。なぜなら7が出るのは16、25、34の組み合わせであるため、6/36=1/6と結構出やすい。現実世界でも、いつもどこかしらで戦争が起こっていることを考えれば、頷ける設定だ。そんな戦禍を自分から遠ざけることができる騎士カードは、遠ざけるだけでなく反撃の手段にもなる。すなわちこの騎士カードを持ってるだけで「もし俺の拠点のある場所に盗賊を動かしたら次のターンは絶対にお前の拠点を潰すぞ」という顔ができるため、他のプレイヤーが7を出した時に盗賊を自分のマスに動かされずらくなるのである。

7を出したプレイヤーは必ず盗賊をどこかに動かさなくてはならない。しかし報復をされるとわかっている相手に対して攻撃をしたいとは、なかなか思わないだろう。

そしてこのゲームは滑り出しが結構重要になってくる。序盤こそ自分のマスに盗賊を置かれたくないということは、誰もが願うことだ。それゆえにゲーム序盤で騎士カードを備蓄することは、重要な戦略になってくるのだ。

騎士力=軍事力を蓄えることが、自分の利益を守るために重要ということは、ゲームをしていれば当然考えが至るところであろう。



じゃあこのゲームは騎士カードばかり集めておけばいいのかと言われると、全くそんなことはない。

騎士カードを最も多く使ったプレイヤーに与えられる最大騎士力カードは2ポイントで、勝利点10点には遠く及ばない。

これがカタンの面白いところであり、この世界の本質をついたところだと、僕は思う。

カタンの勝利点は最大騎士力カード以外に、拠点の数と最大貿易路カード、そして発展カードを引くときに稀にひけるポイントカードによって決まる。単純に拠点を増やすだけでも勝ち切ることは可能である。

また拠点と拠点を繋ぐ『道路』というものを最も長くつなげることで得られる最大貿易路カードは、最大騎士力と同じく2ポイントがある。最大貿易路カードは要するに、最も商売のうまい国に贈られる、経済力のアワードなのではないだろうか。

以上から分かる通り、カタンは『最も強い国』を決めるゲームではない。『最も繁栄した国』を決めるゲームなのだ。

このゲームは軍事力も貿易力も、繁栄の一側面でしかないが、どちらも繁栄に必要な両輪であるということを言いたいのだと僕は思っている。

そしてこれは現実世界の、痛々しいほどの縮図だ。

誰も、軍事力を持っている国に攻め込もうとは思わない。攻め込まれないということは安定的に資材を集められ、その国は持続的に繁栄する。だからこそ7が出たときに起こる世界の災禍で、戦争に巻き込まれないことが最も重要なのだ。



しかし騎士カードは一見すると他国を攻撃するカードにも思えるし、攻撃したところで得られるカードは1枚なので、なかなか初見ではその重要性に気づくことができないと思う。

そういう相手か、あるいは発展カードを引かないという戦いをするプレイヤーが多い場合、僕は自分の手元に騎士カードが7枚とか8枚集まることがザラにある。

いや流石に集めすぎだろと思うかもしれないが、僕は前に発展を全然引かずにプレイしていたことがあるが、その時盗賊カードを8の出る土地に置かれ続け、ひどい想いをしたことがあるので、仕方ないのだ。もう二度と攻め込まれたくないという恐怖から軍拡をおこなっているに過ぎないのだ。

しかし軍拡を行いすぎて拠点が広がらず、後手に回ることも多く、さらに言うと軍事国家だとみなされて他のプレイヤーが結託することを許してしまうこともある。塩梅が重要なのは間違いない。


このようにカタンをやっていると、国家の外交というものがどのような思惑で動いているか、ザックリとだが想像することができる。

それはなぜかというと、この地上のどの国家も、最強の国家を目指しているということはないからだ。あらゆる国家が目指しているのは繁栄であって、軍拡も貿易も全て、そのための一手段に過ぎない。

もちろん、7が全然出ないゲーム回というのも存在する。騎士カードを引きまくった挙句、拠点構築で普通に押し負けるということもままある。

しかしそれはたまたま、恐ろしく平和な時代だったというだけで、7が出るかどうかは運なのだ。



戦争はクソみたいな悪なのは間違いないが、サイコロを振るように勝手に起こってしまうものだ。資源が一枚も手に入らないので誰も本当に望んでいないのに、7は出てしまう。

それは特にこの2022年の春、人類が再認識したことだと思う。

よく人類が性善説か性悪説かという話を戦争論に持ち出す人がいるが、仮に善意しか持っていなくとも全然戦争は起こる。

その上で日本の国防手段をどう評価するかは、また別の議論なのだと思う。

軍隊を持たずとも、繁栄を目的とする勝負で勝つことはきっとできるが、その勝ち筋は僕のような凡人プレイヤーにはなかなか思いつかない相当キテレツな方法になるということだ。そして日本人だけがそんなにキテレツな民族であるとも僕は思えない。

だからもし、この読者が世界に真の平和を願っているなら、一回友達とカタンをプレイしてみてほしい。そして騎士カードを一切百戦百勝できたなら、ぜひ政治家になってこの世界のルールを変えてほしいと思う。

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